「最低賃金、また上がるんですか」
―― 10月に入り、全国の中小企業からそんな声が聞こえています。
2026年9月3日、厚生労働省は2026年度の全国最低賃金額(平均)を1,177円(前年度比56円増)に引き上げると発表しました。1978年度に目安制度が始まって以降、引き上げ額56円は前年度に続き2番目の高さです。この改定を受け、51.3%の企業が給与を引き上げると回答しています。
今回は、最低賃金の引き上げが企業の資金繰りにどう効いてくるのか、どこに注意すべきかを解説します。
給与改定は51.3% ― 残る48.6%との差が生むもの
東京商工リサーチが10月1〜8日に実施した調査(有効回答5,354社)によると、今回の改定で給与を引き上げる企業は51.3%でした。内訳は「最低賃金を超える水準まで引き上げる」が13.1%、「最低賃金額と同額まで引き上げる」が13.5%、「すでに最低賃金を上回っているが、さらに引き上げる」が24.6%です。
一方で、最多だったのは「引き上げ後の最低賃金額より低い時給での雇用はなく、給与は変更しない」の48.6%でした。つまり約半数は、今回の改定では人件費が増えないことになります。
ここで見えてくるのは、給与を上げられる会社と、上げない選択をする会社の二極化です。
そして前者は、どこかでそのコストを回収しなければなりません。
「1,500円は不可能」39.3% ― 改善の裏に残る10.3%
政府は2020年代に全国平均1,500円という目標を掲げています。これに対し「不可能だ」と答えた企業は39.3%で、前回調査(2025年10月)の49.2%から9.9ポイント改善しました。
数字だけ見れば明るい材料です。しかし注目すべきは、最低賃金の上昇に対する対策として「できる対策はない」と答えた企業が10.3%(552社)に達している点です。
設備投資も価格転嫁もできず、自助努力の限界に来ている企業が、10社に1社あります。
産業別では「不可能」の比率が小売業で58.3%と最も高く、次いで農・林・漁・鉱業と金融・保険業が各33.3%でした。人の手が不可欠で、価格を上げにくい業種ほど、賃上げの波に耐えられません。
来年度の許容額は「中央値50円」 ― 現実はすでに超えている
もう一つ、見逃せない数字があります。来年度に許容できる引き上げ額を尋ねたところ、中央値は50円でした。
引き上げを「許容できない」と回答した企業は、なんと最多の19.2%にのぼります。
今年の引き上げ額は56円です。つまり、多くの企業にとって、すでに許容範囲を超えた上昇が起きているということです。「来年は耐えられる」という前提で組まれた経営計画は、今年の時点で崩れている可能性があります。
値上げするか、人を減らすか ― 取引先の選択が自社に及ぶとき
では、企業はこの負担にどう対応しているのか。
対策として最も多かったのは「商品やサービスの価格に転嫁する」で43.9%、前回から4.8ポイント上昇しました。一方、「設備投資で生産性を向上させる」は19.8%でほぼ横ばい。中小企業に限れば設備投資は19.1%で、大企業の29.7%を10ポイント以上下回ります。
つまり中小企業の多くは、生産性を上げるのではなく、値上げで対応しようとしている。
そして値上げができなければ、残る選択肢は人件費の圧縮です。
ここが取引先リスクの分岐点になります。
人件費の上昇を価格に転嫁できた会社は生き残り、できなかった会社は支払い余力がじわじわ削られていきます。
しかも、その差は決算書の数字として表面化するまでに時間がかかります。
「今年も値上げのお願いを断られた」
―― その取引先は、来年も同じ対応ができるとは限りません。
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小林 邦洋
株式会社ラクーンフィナンシャル 審査部 部長
リース会社や保証会社の与信管理セクションにて、長年にわたり信用リスクの調査・分析に従事。現在はラクーンフィナンシャルの審査部部長として、膨大な企業データの分析と審査スキームの構築を指揮する「審査のプロ」。
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