資金繰りの調整において、将来受け取る予定のお金を早めに現金化したい場面は少なくありません。手元に「約束手形」がある場合、支払期日が来る前に銀行などに買い取ってもらい、現金化する方法があります。これを「割引手形」と呼びます。
割引手形は、銀行融資などの審査に比べて、取引先(振出人)の信用力を重視するため、創業間もない企業や業績が不安定な企業でも資金調達しやすい場合があります。しかし一方で、取引先が倒産した際に自社が責任を負わなければならないリスクなど、注意すべきデメリットも存在します。
この記事では、割引手形の基本的な仕組みや類似用語との違い、利用するメリット・デメリットについて分かりやすく解説します。
割引手形とは?類似用語との関係性や利用の流れ
割引手形について深く理解するためには、まず大前提となる「約束手形」の仕組みや、手形取引で頻繁に登場する専門用語について知っておく必要があります。
ここでは、それぞれの用語の意味と関係性、そして実際に割引手形を利用して現金を手にするまでの流れを解説します。
約束手形とは
約束手形とは、商取引の代金を支払う際に現金の代わりに発行される証書のことで、「いつ(支払期日)、いくら(金額)を、誰(受取人)に支払うか」が記載されています。
商品を買い入れた企業(振出人)が手形を発行して相手に渡し、商品やサービスを提供した企業(受取人)がそれを受け取ります。受取人は、手形に記載された支払期日が来ると、銀行を通じて代金を受け取ることができます。これを「手形の決済」と呼びます。
振出人にとっては、代金の支払いを数カ月先まで延ばせるため、その間に商品を販売して現金を確保できるというメリットがあります。受取人にとっては、支払いが先になるため資金繰りが負担となりますが、「将来確実にお金をもらえる権利」として法的効力の強い証書を得られる点が、単なる口約束の掛け売りとは異なります。
なお、政府の方針により、紙の約束手形は2026年4月以降、新規発行が原則廃止される予定です。今後はインターネット上でやり取りする「電子記録債権(でんさい)」への移行が進んでいきますが、基本的な仕組みや「割引」の考え方は電子化されても大きく変わりません。
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約束手形とはなにか? 受取手形との違いとその仕組みついて解説
でんさいと手形の違い 注意すべきデメリットと導入メリットを実務視点で解説
割引手形とは
割引手形とは、受け取った約束手形を支払期日が来る前に銀行や手形割引業者に買い取ってもらい、現金化することです。「手形割引」とも呼ばれます。
通常、手形は期日まで待たなければ現金になりません。しかし、期日までの期間分の利息に相当する手数料(割引料)を支払うことで、期日前に現金を受け取ることができます。手形の額面金額から手数料が割り引かれることから、このような名前がついています。
会計上は、手形債権を銀行に譲渡して売却した扱いとなりますが、実質的には「手形を担保にした短期的な資金調達」と考えることができます。銀行からの借入とは異なり、契約上は譲渡取引として処理されます。
裏書手形とは
裏書手形とは、受け取った約束手形を現金化するのではなく、自社の仕入れ代金などの支払いに充てるためにそのまま他社へ譲渡した手形です。
手形の裏面には「裏書欄」という記入スペースがあります。ここに自社の名前や住所を記入し、印鑑を押して相手に渡すことで、手形の権利を譲渡できます。これを「裏書譲渡」といいます。
割引手形を利用する場合も、銀行に対して手形を譲渡する形をとるため、手形の裏面に自社の署名・捺印を行います。その意味で、割引手形も裏書手形の一種です。
ただし、一般的には以下のように使い分けられます。
- 割引手形:銀行に譲渡して「現金」に換えること
- 裏書手形(裏書譲渡):取引先に譲渡して「支払い」に使うこと
どちらも手元にある手形を有効活用する手段ですが、利用目的が異なります。
関連記事:手形の裏書とは?方法とメリット、デメリットについて解説。
不渡手形とは
不渡手形とは、支払期日が来たにもかかわらず、振出人の当座預金口座に残高が不足しているなどの理由で、決済ができなかった手形です。
手形が不渡りになると、受取人は銀行から「代金を受け取れませんでした」という通知とともに手形が返却されます。つまり、商品やサービスを提供した対価が回収できず、ただの紙切れが戻ってくる状態です。
振出人にとっても不渡りは致命的です。6カ月以内に2回不渡りを出すと「銀行取引停止処分」を受け、事実上の倒産扱いとなります。そのため、振出人は必死で資金を用意しようとしますが、それでも支払えない場合に不渡りが発生します。
割引手形を利用する際は、この不渡りリスクを常に意識しておく必要があります。
割引手形を利用する流れ
実際に割引手形を利用して資金を調達する際の手順を見ていきましょう。一般的には、銀行(都市銀行、地方銀行、信用金庫など)や、手形割引を専門に行う業者に依頼します。
1.申し込みと必要書類の提出
まずは、取引のある銀行や信用金庫、または手形割引業者へ申し込みを行います。
金融機関や業者によって必要書類は異なりますが、主に以下のような書類を準備しておくと手続きがスムーズに進むでしょう。
- 約束手形(現物)
- 商業登記簿謄本(登記事項証明書)
- 決算書(直近2~3期分)
- 納税証明書や税務申告書
- 法人の印鑑証明書
- 代表者の本人確認書類
- 法人の預金通帳
2.振出人の審査
申し込みが完了すると、審査に入ります。
まず実施されるのが「振出人」に対する審査です。金融機関や手形割引業者は、信用情報機関のデータなどを参照し、「この会社は支払期日にしっかり代金を支払えるか」を確認します。
振出人の審査は、手形を現金化するための担保価値を測る目的で実施されます。そのため、振出人が上場企業や業績好調な大手企業であれば、信用力が高いと判断され、問題なく審査を通過する場合がほとんどです。
3.申込者の審査
振出人の審査と並行して、またはその後に「申込者」に対する審査が行われます。
ここでのポイントは、「万が一、手形が不渡りとなった際に、買い戻す力があるか」です。割引手形には、不渡りの際に自社が代金を弁済する「買い戻し義務」があるため、申込者の返済能力もチェックされます。
審査ポイントは、銀行と手形割引業者とで少し異なります。
銀行は、振出人の信用力だけでなく、申込者の業績や借入状況も厳格に判断します。たとえ振出人が優良企業でも、申込者の経営状態が著しく悪いと判断されれば、審査に通らない場合があります。また、詳しく調査するため、結果が出るまでに1週間程度かかることもあります。
手形割引業者は、振出人の信用力を最優先します。「振出人がしっかりしていれば、買い戻しリスクは低い」と判断されるため、申込者への審査は簡略化、あるいは原則行われないことが一般的です。そのため、早ければ1時間程度で審査が完了します。
4.契約・入金
無事に審査を通過したら、契約手続きに進みます。
割引業者の場合は、事前に割引料の見積もりを出してもらえるため、金額に納得した上で契約できます。契約は店舗への来店、または郵送で行います。
契約締結後、約束手形の額面金額から、期日までの割引料と取立手数料などが差し引かれた金額が、指定の銀行口座に入金されます。業者によっては、その場で現金を受け取れる場合もあります。
なお、現金化して手続き完了ではありません。その後、支払期日に振出人が銀行へ決済を行えば無事に終了ですが、もし支払われなかった場合は「不渡り」となり、自社に買い戻しの連絡が来ます。
割引手形のメリット

中小企業の資金調達には、銀行融資やビジネスローン、助成金などさまざまな手段があります。その中でも、割引手形にはほかの方法にはない独自のメリットがあります。
ここでは、割引手形のメリットを3つ紹介します。
早期に現金を調達できる
最大のメリットは、資金の流動性を高められる点です。
約束手形の支払期日は、発行から3~4カ月先に設定されることが一般的です。何もしなければ、その期間はずっと代金は入ってきません。しかし、その間にも従業員への給与支払いや、仕入れ代金の決済、家賃や光熱費などの固定費の支払いは毎月発生します。
「帳簿上は黒字なのに、手元に現金がない」という理由で経営が回らなくなる「黒字倒産」を防ぐために、割引手形は有効です。必要なときにすぐに手形を現金化することで、手元の資金不足を解消し、安定した経営を維持できます。
一般的な融資よりも審査に通りやすい
銀行から事業資金を借り入れる「証書貸付」などの融資では、借りる側の返済能力が厳しく審査されます。創業したばかりで実績が少ない場合や、直近の決算が赤字である場合、追加の融資を受けるのは容易ではありません。
一方、割引手形の審査で重視されるのは、手形代金を支払う「振出人」の信用力です。なぜなら、最終的に銀行にお金を払うのは振出人だからです。
もし自社の業績があまりよくなくても、手形の発行元が上場企業や公的機関、業績好調な優良企業であれば、「この手形は確実に決済される」と判断され、審査に通る公算が大きくなります。
自社の信用力だけでなく、取引先の信用力を活用して資金調達できる点は、中小企業にとって大きな強みです。
割引手数料が安い
資金調達にかかるコストを抑えられる点も魅力です。
手形の割引料は、年利換算で計算されます。金利相場は金融機関や振出人の信用度によって異なりますが、銀行であれば年率おおむね1.5~4.0%程度、信用金庫では2.5~5.0%程度が目安です。なお、手形割引専門業者の場合はこれより高く、年率3.0~15.0%程度が相場となることがあります。※具体的な金利は金融機関や振出人の信用力により異なります。
これは、ビジネスローンやカードローンなどの金利(年率10~18%程度になることも多い)と比較すると、かなり低い水準です。
また、近年普及している「ファクタリング」の手数料と比較しても、手形割引のほうが安く済むケースが大半です。コストを低く抑えながら資金を確保できるため、利益を圧迫しにくいのがメリットです。

割引手形のデメリット
手形割引は便利で低コストな資金調達手段ですが、デメリットが伴うのも事実です。デメリットを十分に理解せずに安易に利用すると、後に大きなトラブルに巻き込まれるおそれがあるので、気をつけましょう。
ここでは、割引手形のデメリットを3つ紹介します。
不渡りになると償還義務が発生するリスクがある
割引手形を利用する上でもっとも注意が必要なのが、「償還請求権」の存在です。
手形割引を行った後、支払期日までに振出人が倒産するなどして手形が不渡りとなった場合、銀行は手形の振出人から代金を回収できなくなります。このとき、銀行は手形を割り引いた申込者に対して、「手形の代金を代わりに支払ってください」と請求する権利を有します。これが償還請求権です。
自社にとっては、すでに割引で受け取って使ってしまった現金を、ただちに銀行へ返済しなければならない義務(買い戻し義務)が生じます。ただでさえ取引先の倒産で売上が消滅している状況で、さらに銀行への多額の返済を迫られることになります。
これが引き金となって、自社も資金繰りに行き詰まり、連鎖的に倒産してしまうケースも少なくありません。
割引手形はあくまで「融資」の一種であり、最終的なリスクは自社が負担するという点を忘れてはいけません。
割引手数料を引かれる
メリットで「手数料が安い」とお伝えしましたが、それでもコストがかかることに変わりはありません。
例えば、額面1,000万円の手形を、期日まで90日残して割り引くとします。割引率(年率)が3.0%だった場合、計算は以下のようになります。
1,000万円 × 3.0% × 90日 ÷ 365日 ≒ 約74,000円
この約74,000円が手数料として引かれ、手元には992万6,000円が入金されます。
期日まで待てば1,000万円全額を受け取れたはずですが、早期現金化のために利益の一部を削ることになります。割引の頻度が増えれば、年間のコストは無視できない金額になります。
利益率の低いビジネスをしている場合は、この手数料が経営を圧迫する要因になりかねません。
分割での現金化は原則できない
約束手形は、「その証書と引き換えに金銭を支払う」という性質の有価証券であり、原則として物理的に分割できません。
例えば、手元に500万円の手形が1枚あり、「今月は資金が足りないから100万円だけ現金化したい」と思っても、手形の一部だけを切り取って割り引くことは原則不可能です。
現金化するには500万円の手形を丸ごと銀行に渡す必要があり、500万円全額に対して割引料がかかります。必要な金額以上の現金を調達することになり、無駄な手数料を支払うことになるケースもあります。
なお、例外として、振出人に依頼して手形を「100万円の手形」と「400万円の手形」に書き分けてもらう「手形の分割」という方法もあります。ただし、振出人の承諾と手間が必要になり、容易ではありません。
不渡りリスクに備える「売掛保証サービス」という手段

ここまで解説したように、割引手形には「早期に現金化できる」という大きなメリットがある反面、「振出人が倒産したら自社が借金を背負う」というデメリットが潜んでいます。
未回収リスクへの不安を解消するための有効な手段として、近年注目されているのが「売掛保証サービス」です。
売掛保証サービスとは
売掛保証サービスとは、取引先からの入金が滞ったり、倒産によって回収不能になったりした場合に、あらかじめ契約した保証会社がその代金を肩代わりして支払ってくれるサービスです。
仕組みは損害保険に似ています。
自社は保証会社に毎月一定の「保証料」を支払います。何事もなく取引が完了すれば掛け捨てになりますが、万が一、取引先が倒産して手形が不渡りとなったり、売掛金が支払われなかったりした場合には、保証会社から「保証金」が支払われます。
このサービスの最大の特徴は、手形割引やファクタリングとは異なり、「資金調達」ではなく「リスクヘッジ」に特化している点です。割引手形で現金化した後に手形が不渡りになっても、保証サービスに入っていれば、保証会社から受け取った保証金を使って銀行への買い戻しに充てられるケースがあります。保証範囲は契約内容により異なるため、原則として不渡りリスクを軽減できる仕組みとして理解してください。
売掛保証サービスのメリット
売掛保証サービスを導入することで、以下のようなメリットを得られます。
未払いリスクの軽減(経営の安定化)
取引先の倒産による不安を解消できます。万が一の際も資金が確保されるため、キャッシュフローの悪化を防ぎ、連鎖倒産のリスクから会社や従業員を守れます。
与信管理の手間を削減できる
安全な取引のためには、取引先の経営状態を調べる「与信管理」が欠かせません。しかし、中小企業が独自に相手企業の詳しい財務状況を調べたり、危ない兆候を察知したりするのは現実的に困難です。
売掛保証サービスを利用すれば、保証会社がプロの目線で取引先を審査します。「保証を引き受けられる=一定の信用がある」という判断基準になるため、自社で調査する手間やコストを大幅に省けます。
関連記事:【初心者必見】与信判断のポイントと与信管理の方法を解説
積極的な販売拡大
「新しい取引先から大口の注文が来たが、支払われるか心配で受注を迷っている」という場面でも、保証があれば安心して取引を始められます。リスクを恐れてビジネスチャンスを逃すことがなくなり、積極的に売上を伸ばしていくことが可能になります。
関連記事:売掛保証とはなにか ファクタリングとの違いと実際の利用事例をご紹介
まとめ
割引手形は、手元にある約束手形を、手数料を支払うことで現金化する手段です。特に、銀行融資よりも審査のハードルが低く、スピーディに資金を用意できる点は、多くの中小企業にとって強い味方となります。
しかし、その利便性の裏側には、「もし取引先が倒産したら、自社が責任を負わなければならない」という重いリスクがあります。手形割引はあくまで「借金」であり、手形が決済されて初めて取引が完了するということを忘れてはいけません。
資金繰りを円滑にしながら、こうした不測の事態にも備えておきたいと考える中小企業にもおすすめなのが、売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」です。
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