「DX需要は拡大している。システム投資も増えている。なのに、その仕事を請け負う会社の経営が苦しくなっていく」
――2026年7月、東京商工リサーチが発表したデータによると、2026年上半期(1〜6月)の「情報サービス業」の倒産は166件(前年同期比18.5%増)と、2017年以降の過去10年間で最多を更新しました。
追い風のはずの成長産業で、なぜ倒産が急増しているのか。背景には、生成AI・ノーコードツールの急速な普及という、業界の構造を根底から変える”見えない大波”がありました。
今回は、システム開発やWeb制作の発注先が「突然消える」リスクの実態と、経営者が今すぐ知っておくべき備え方を解説します。
上半期166件で過去10年最多 ― 倒れるのは「小さな会社」
2026年上半期に倒産した情報サービス業は166件。
注目すべきは、倒れている企業の”顔ぶれ”です。
負債額別では、負債1億円未満が147件と、構成比88.5%を占めました。
従業員数で見ると、5人未満の事業者が135件(81.3%)と圧倒的。
資本金1千万円未満も107件(前年同期比21.5%増)に上ります。
地区別では関東が105件(63.2%)と、
都市部の小規模事業者に倒産が集中している構図が浮き彫りになりました。
東京商工リサーチの分析では、大手や中堅企業は待遇アップで高度人材を確保し、大型案件や専門性の高い案件の受注で優位に立つとされています。その一方で、下請けや小規模案件で業績を繋ぐ事業者は、十分な利益を確保しにくい ―― 業界の”二極化”が、小さな会社から順番に飲み込んでいるのです。
生成AI・ノーコードという”静かな破壊者”
ではなぜ、小規模な開発会社がこれほど追い込まれているのでしょうか。
東京商工リサーチのレポートでは、原因を下記のように指摘しています。
「開発スピードが早いノーコード、ローコードツールや生成AIの普及で、簡易なコンテンツ制作・開発業務の内製化が進み、価格競争に依存していた小・零細規模の事業者には逆風が強まっている」
つまり、これまで外注していた「簡単なホームページ制作」や「ちょっとした業務ツールの開発」を、発注側の企業がAIを使って自社で作るようになったのです。専門知識がなくてもアプリが作れるノーコードツール、文章やコードを自動生成するAI ―― これらの普及が、小規模事業者の”主戦場”そのものを消し去りつつあります。
【生成AIが引き起こす”受注消滅”の連鎖】
① 生成AI・ノーコードツールの普及 ↓ ② 発注側が簡易開発を「内製化」 ↓ ③ 単価の安い小規模案件が蒸発 ↓ ④ 価格競争で利益が削られる ↓ 受注はあるように見えて、ある日突然「資金ショート」
技術の進化は止まりません。来年にはさらに多くの案件が「内製化」の対象になるでしょう。
参入1万社超 vs 退出3,290件 ― 「新陳代謝」という名の生存競争
さらに、この業界にはもう一つの構造的な問題があります。
DX需要の拡大を追い風に、情報サービス業への参入は後を絶ちません。
2025年の新設法人数は1万1,138件で、4年連続で1万社超の高水準が続いています。
ところがその裏で、2025年の倒産(276件)と休廃業・解散(3,014件)の合算は3,290件(前年比20.8%増)と、前年から2割も増加。参入と市場退出の交差で業界内の新陳代謝は激しさを増す見込みです。
「IT企業」「DX人材」という流行に乗って今日参入した会社が、明日消える。ホームページの見た目が立派でも、実態は設立1年の1人社長かもしれないのです。「成長産業の取引先だから大丈夫」―― その思い込みこそが、最大の罠です。
発注先が消えると、売掛金だけでなく「納品物」も消える
ここで、情報サービス業と取引する企業が知っておくべき、特殊な被害構造があります。
一般的な取引先の倒産で失うのは「未回収の売掛金」ですが、システム開発・Web制作会社の倒産は、それだけでは済みません。開発途中のシステムやソースコードが宙に浮き、保守契約が断絶して自社の基幹システムを誰も直せなくなる。管理を任せていたサイトのドメインやサーバーが放置され、気づいたら会社のホームページが消えている ―― そんな事例も実際に起きています。
そして厄介なのは、この種のリスクが決算書に現れないことです。受注実績はある。納期も守ってくる。それでも、単価が崩れた小規模案件の寄せ集めでは、会社の体力は静かに削られていきます。「忙しそうに見える取引先」が、ある日突然連絡が取れなくなる。成長産業の中で起きる倒産ほど、予兆をつかむのが難しいのです。
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「業界が伸びているから大丈夫」―― その思い込みが一番危険です。
参入と退出が激しく交差する業界の取引先こそ、事前の備えがものを言います。
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【出典】
東京商工リサーチ TSRデータインサイト