商品やサービスを売ると、代金の入金前でも消費税の納税義務が生じます。売掛金が未回収のまま取引先が倒産すると、売上代金に加えて、先に納めた消費税まで戻らないおそれがあります。
そこで知っておきたいのが、貸倒れ時に使える消費税の控除です。回収できなくなった売掛金の消費税は、要件を満たせば納める消費税から差し引けます。ただし要件は厳しく、満たせないときは消費税分が損失として残るのが実情です。
この記事では、売掛金と消費税の基本の関係を最初に整理します。あわせて、未回収が消費税の損失につながる仕組みと、損失を防ぐ経営判断まで解説します。
売掛金と消費税の基本関係
経営判断で重要なのは「消費税をいつ納めるか」という時期の問題です。消費税は入金時ではなく、商品やサービスを引き渡した売上の時点で課税されます。
ここで取り上げるのは、納税義務が発生する時期、経理方式の違い、基本の仕訳の3点です。仕訳の詳しい処理は経理担当者に任せる前提で、経営者が押さえるべき要点に絞って解説します。
消費税の納税義務は売上時に発生する
消費税の納税義務は、商品やサービスを引き渡した売上の時点で発生します。代金が入金されたかどうかは関係ありません。売掛金として代金が未回収の状態でも、売上に含まれる消費税は申告対象になります。
一方、売掛金を回収した時点では、新たな消費税はかかりません。課税されるのはあくまで売上の時点で、売掛金の回収自体は消費税の課税対象外です。
例えば、3月に110万円(税込)の商品を納品し、入金が5月の場合を考えましょう。消費税10万円の納税義務は、入金前の3月時点で発生しています。決算をまたげば、入金がなくても消費税分を含めて申告・納税する必要が生じます。
つまり、売掛金には「すでに納税義務が生じた消費税」が含まれている状態です。取引先の倒産で売掛金が回収できないと、売上代金だけでなく、先に納めた消費税まで戻らないおそれがあります。
税込経理方式と税抜経理方式
消費税の経理処理には、税込経理方式と税抜経理方式の2種類があります。どちらを選んでも納める消費税の金額は変わりませんが、帳簿への記載方法が異なります。
| 方式 | 特徴 |
| 税込経理方式 | 売上や仕入を消費税込みの金額で記帳する。処理が簡単で、小規模な事業者に向いている |
| 税抜経理方式 | 本体価格と消費税を分けて記帳する。損益と消費税の負担を区別して把握できる |
経営判断の視点では、税抜経理方式に利点があります。売掛金にいくらの消費税が含まれているかを帳簿上で把握でき、未回収時の影響額も見積もれるからです。
なお、免税事業者は税込経理方式しか選べません。自社がどちらの方式を採用しているかは、決算書や会計ソフトの設定で確認できます。方式の変更を検討する場合は、顧問税理士に相談するとよいでしょう。
売掛金発生時と回収時の仕訳
売掛金の基本の仕訳を、発生時と回収時に分けて紹介します。税抜経理方式で、110万円(税込)の売上を例にしましょう。
【売掛金の発生時(売上計上時)】
| 借方 | 貸方 |
| 売掛金 1,100,000円 | 売上 1,000,000円 仮受消費税 100,000円 |
売上を計上した時点で、消費税10万円を「仮受消費税」として記帳します。取引先から預かる予定の消費税を、入金前に認識する形です。
【売掛金の回収時(入金時)】
| 借方 | 貸方 |
| 普通預金 1,100,000円 | 売掛金 1,100,000円 |
入金時は売掛金を消し込むだけで、消費税の処理は発生しません。仮受消費税は、売上時にすでに計上済みだからです。
インボイス制度で変わった与信・取引先管理の注意点
納税の時期がわかったところで、次は取引先の管理に目を向けましょう。
2023年10月に始まったインボイス制度で、取引先の確認項目と請求書の実務が変わりました。適格請求書の発行や確認に不備があると、税負担が増えるだけでなく、支払いの保留や入金の遅れにつながる場合もあります。
ここでは、主に2つの注意点を整理します。
取引先が適格請求書発行事業者か確認する
新しい取引を始める前に、取引先が適格請求書発行事業者として登録済みかを確認しましょう。登録の有無は、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で調べられます。取引先の登録番号を入力すれば、正式な登録事業者かどうかが表示されます。
確認が必要な理由は、仕入れや外注で自社が買い手になる場面があるためです。未登録の事業者への支払いでは、原則として仕入税額控除を受けられず、自社の消費税負担が増えます。
ただし、インボイス制度には経過措置が設けられています。2026年9月末までは、仕入税額相当額の80%を控除できます。2026年10月以降は70%に下がり、段階的に縮小したうえで2031年9月末に終了する予定です。とはいえ、控除額は目減りしていくため、自社の消費税負担が徐々に増える点に変わりはありません。
なお、経過措置の内容は2026年8月時点のものです。税制改正で変わる場合があるため、最新の情報は国税庁のサイトで確認してください。
また、登録状況の確認は与信管理にも役立ちます。実在しない登録番号を記載した請求書は、架空取引や請求書の偽造を疑う手がかりになるからです。取引開始時の確認項目に「登録番号の照合」を加えれば、不審な取引先を早い段階で見分けられます。
適格請求書を正確に作成する
自社が売り手として発行する適格請求書は、記載に不備がないよう正確に作成しましょう。登録番号や税率ごとの消費税額など、記載すべき項目は法令で定められています。
適格請求書に記載が必要な主な項目は、以下のとおりです。
- 発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨を含む)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
- 交付を受ける事業者の氏名または名称
記載に不備があると、取引先は仕入税額控除を受けられません。不備のある請求書は、支払いの保留や再発行のやり取りを招き、入金が遅れる原因になります。

未回収時の消費税損失と控除の仕組み

取引先の与信審査をおこなったからといって、倒産による未回収を完全には避けられません。
消費税は入金前に納めるため、売掛金が未回収のまま取引先が倒産すると、売上代金に加えて消費税の払い損が生じます。救済策として、消費税法39条には「貸倒れに係る消費税額の控除」が用意されています。ただし控除の要件は厳しく、満たせなければ消費税分の損失は残ったままです。
ここでは、損失が生まれる仕組みと控除の要件を、具体例を交えて解説します。
貸倒れに係る消費税額の控除とは
貸倒れ(かしだおれ)とは、取引先の倒産などで売掛金を回収できなくなる状態です。貸倒れに係る消費税額の控除とは、回収できなくなった売掛金に含まれる消費税を、納める消費税から差し引ける制度を指します。消費税法39条に定められており、貸倒れが確定した課税期間の消費税額から控除します。
具体例で確認しましょう。税込110万円の売掛金が貸倒れになった場合、売掛金には消費税10万円が含まれています。売上時に納税義務が生じた10万円を、貸倒れ確定時の申告で取り戻せる仕組みです。
| 項目 | 金額 |
| 貸倒れた売掛金(税込) | 110万円 |
| 控除で取り戻せる消費税額 | 10万円 |
| 控除を受けても戻らない本体部分 | 100万円 |
なお、控除されるのは消費税部分だけで、本体の100万円は控除を受けても戻らない点には注意してください。
控除を受けられる貸倒れの要件
控除を受けるには、税務上の「貸倒れ」の要件に該当する必要があります。要件は以下の3つに区分されており、どれか1つに該当しなければなりません。
| 区分 | 主な内容 |
| 法律上の貸倒れ | 会社更生法や民事再生法の認可決定などにより、債権の切捨てが確定した場合 |
| 事実上の貸倒れ | 取引先の財産状況や支払能力から、全額の回収が不可能と明らかになった場合 |
| 形式上の貸倒れ | 継続的な取引先との取引を停止し、取引停止と最後の弁済期などのうち遅いほうから1年以上が経過した場合(担保がある場合を除く) |
区分の内容は、法人税の貸倒損失の要件とほぼ共通しています。つまり、貸倒損失を計上できる状況であれば、消費税の控除もあわせて検討できます。
ただし、要件の認定は簡単ではありません。「支払いが遅れている」「連絡が取れない」といった段階では、事実上の貸倒れとは認められないためです。回収の見込みが少しでも残っていれば、控除の対象外と判断されます。要件を満たすかどうかの判断に迷う場合は、税理士へ相談しましょう。
保存が必要な書類
控除を受けるには、貸倒れの事実を証明する書類の保存が求められます。書類がなければ、要件を満たしていても税務調査で否認されるおそれがあります。日ごろから取引記録や督促の履歴を残しておいてください。
区分ごとに保存すべき書類の例は、以下のとおりです。
・法律上の貸倒れ:更生計画や再生計画の認可決定通知、債権切捨ての通知書
・事実上の貸倒れ:取引先の財務状況の調査記録、回収に向けた交渉の記録
・形式上の貸倒れ:取引停止の時期がわかる帳簿、督促の記録
あわせて、控除できないケースも押さえておきましょう。免税事業者だった期間の売上に係る売掛金や、貸付金・土地の売却代金など消費税がかからない取引の債権は、控除の対象外です。
消費税損失を防ぐ方法
控除の仕組みを知っても、本体の代金は戻りません。要件の確認や書類の準備にも、手間と時間がかかります。だからこそ、貸倒れを起こさない体制を整備することが重要です。
ここでは、損失を防ぐ経営判断として、3つの方法を紹介します。
与信審査と支払期日の管理を徹底する
貸倒れを防ぐために、与信審査と支払期日の管理を徹底してください。与信審査とは、取引先の支払能力を調べて、取引してよいかを判断する審査を指します。審査の結果をもとに、取引額の上限(与信限度額)を設定します。
与信限度額を決めておけば、1社への売掛金が膨らみすぎる事態を防げます。仮に貸倒れが起きても損失は限度額の範囲に収まるため、経営への打撃を小さくできるでしょう。
支払期日の管理も同じく重要です。支払いの遅れは、取引先の資金繰り悪化を知らせる最初のサインだからです。入金予定日を一覧で管理し、期日を過ぎた取引先にはすぐ連絡を入れましょう。
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取引先の情報を集めて信用を見極める
与信管理の精度は、取引先の情報量で決まります。決算書や登記情報、業界内の評判など、入手できる情報を集めて信用を見極めましょう。
情報収集の主な方法は、以下のとおりです。
- 帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社に調査を依頼する
- 登記情報で本店所在地や役員の変更履歴を確認する
- 取引先から決算書の提出を受け財務状況を確認する
- 取引先の訪問時に営業担当者が在庫や従業員の様子を観察する
なお、取引開始時の調査だけで安心してはいけません。経営状況は変化するため、継続的な情報収集が重要です。「支払いが数日遅れがちになった」「担当者が頻繁に変わる」といった小さな変化も、危険を知らせるサインといえます。
売掛保証サービスで未回収リスクに備える
売掛保証サービスの活用も検討してください。
売掛保証サービスとは、取引先が代金を支払えないとき、保証会社が代わりに代金を支払う仕組みです。保証をつけた取引先が倒産しても、保証の範囲内なら代金相当額が保証されます。
保証によって代金が補填されれば、消費税の悩みも一緒に消えます。代金が補填されれば、そもそも貸倒れによる自社の損失が発生しません。つまり、消費税の「払い損」に悩む必要も、控除のために書類を集める手間もなくなります。
また、取引先の与信審査を保証会社に任せられる点もメリットです。自社に審査の経験や人員がなくても、保証会社の与信審査の結果をもとに取引を進められます。人手の限られた中小企業ほど、審査を外部に任せる効果は大きいでしょう。
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経営者・営業部長向け|売掛金と消費税のチェックリスト
ここでは、経営者と営業部長が確認すべき点を、チェックリストの形でご紹介します。確認のタイミングは、取引前・取引中・未回収時の3段階で整理しました。
| 段階 | 確認項目 |
| 取引前 | ・適格請求書発行事業者の登録番号を照合したか ・信用調査で支払能力を確認したか ・与信限度額を設定したか ・契約書や注文書を整備したか |
| 取引中 | ・適格請求書を正確に発行しているか ・入金予定日を一覧で管理しているか ・支払いの遅延にすぐ気づける仕組みがあるか |
| 未回収時 | ・貸倒れの3つの要件に該当するか確認したか ・貸倒れを証明する書類を保存したか ・消費税法39条の控除を申告したか ・税理士に相談したか |
すべてを一度に整える必要はありません。まずは自社の管理体制と照らし合わせ、抜けている項目から整えてみてください。
まとめ
消費税法39条は、貸倒れた分の消費税を控除できる制度です。ただし控除の要件は厳しく、書類が足りないと否認されます。要件を満たしても、本体の代金は戻りません。だからこそ、損失を計上するための実務対応より、貸倒れを起こさない体制づくりが重要です。
貸倒れを防ぐ手段として検討すべきなのが、売掛保証サービスです。売掛保証サービスとは、取引先が代金を払えないとき、保証会社が代わりに支払う仕組みを指します。中でもおすすめなのが「URIHO(ウリホ)」です。URIHOは、月額9,800円〜で使える売掛保証サービスです。取引先の倒産や支払い遅延が起きたとき、URIHOが代金を保証します。
URIHOを導入すれば、未回収リスクを根本から抑えられます。保証会社が取引先の与信審査を代行するので、与信管理の負担も軽くなるでしょう。承認率は95%と高く、信用力に不安があって見送っていた取引にも、保証をつけて踏み出せます。初回の保証開始日から1カ月間は無料で試せます。未回収の不安をなくし、本業に集中したい方は、URIHOの利用を検討してみてください。