債権者代位権は、債権者が債務者の代わりに、債務者が持っている債権を他の人から回収できる権利です。企業の財務担当者にとっては債権保全手法の一つとして、リスク管理の強化につながる重要な法的知識といえます。
ただし、債権者代位権には厳格な要件と制限があります。この記事では、債権者代位権の定義から発生要件、効果や手続き方法、制限、注意点について解説します。
債権者代位権とは?
債権者代位権とは、債権者が自己の債権(被保全債権)を保護するために、債務者が持つ特定の権利(被代位権利)を債権者自身の名義で行使できる権限のことを言います。これにより、債権者は債務者に代わって直接、債権の回収を試みることができます。民法においては、保護対象となる債権を「被保全債権」、債務者の行使可能な権利を「被代位権利」と明確にしています。
例えば、債務者Aが他の第三者B(以下、第三債務者B)に対して持っている貸金債権である被代位権利を回収しない場合、債権者CはAの立場に立って第三債務者Bからその債権を回収することが可能です。この場合、債権の譲渡を実施することなく、債権者Cは債務者Aに代わり第三債務者Bに対して債権回収を行う権利を持つわけです。
このような債権者代位権は、債権者の権利を保護する目的で設けられており、実際に行使するためには満たすべき厳格な条件が存在します。
債権者代位権が発生する要件とは
そもそも大原則として、民法では財産管理に他人が介入する行為が認められていません。債権者代位権は、他人の権利や財産に干渉する行為であることが間違いない事実でありながら民法第423条によって存在が明示されています。つまり、例外的に認められた他人の財産管理への介入権といえます。例外ゆえ、債権者代位権が発生する要件は厳格に定められているといえるでしょう。債権者代位権が発生する具体的な要件を以下に解説します。
債務者に資力が不十分で債権の回収に支障がある
債権者代位権を行使するための一つ目の要件は、債権を保全する必要性の存在です。具体的には、債務者の資力が不十分であり、代位権の存在を主張しなければ、債権の満足を受けられなくなる恐れがある状態です。
債務者の資力が十分あり、債権の回収に支障がない場合には、やみくもに代位権の行使を許すべきではありません。そのため、債務者に資金力が無いことが重要な要件とされます。
債務者の権利不履行
債権者代位権の二つ目の要件は、債務者が自らの権利(被代位権利)を行使していない状態であることです。代位権の行使は、債務者が自主的に権利の回収に動いていない状態に限られます。
したがって、債務者自ら被代位権利の回収に動いたのであれば、たとえその行為が不適当であり債権者にとって不利益であったとしても、債権者はもはや代位権を実行に移せません。債務者の権利履行後も代位権行使を認めることは、債権者の債務者に対する不当な財産管理への干渉を認めることになるからです。
また、債務者が権利に関して訴えを提起した場合、たとえ訴えの方法が不適当であったとしても、債権者は代位権を行使できません。
被保全債権および被代位権利がともに履行期にあること
債権者代位権の三つ目の要件は、債権者の債権(被保全債権)が原則として履行期にあることと同時に、債務者の第三者債務者に対する債権(被代位権利)も履行期にあることが求められます。
履行期前に代位権の行使を行うことは、債務者の自由への干渉となる可能性があり、ときに濫用されるおそれがあるため、履行期前の代位権行使は制限されます。
ただし、この原則には保存行為に関する例外があります。保存行為とは、債務者の権利の現状を維持するための行為で、例えば以下のようなものです。
- 消滅時効の阻止のための行使
- 未登記の権利の登録
- 第三者債務者の破産の場合における債権の届出
以上の要件がそろった場合、債権者は代位権を行使できます。
債権者代位権の効果
ここでは、債権代位権によってどのような効果が生じるのか解説します。
第三債務者から債権者への直接の支払いまたは引渡し
債権者代位権の行使として、相手方である第三債務者に対し動産の引渡しや金銭の支払いを要求する場合、債権者は直接自身への支払い・引渡しを請求できます。
また、第三債務者が債権者に対して支払いや引渡しを行うと、被代位債権は履行されたことになり消滅します。
債務者は代位権行使を防止できない
債権者代位権の要件が揃い、ひとたび債権者代位権が実行に移されると、債務者は債権者の代位権の行使を防止できません。ただし、債権者の代位権の行使後であっても、債務者自身が自らの被代位権を行使することは可能です。相手方の第三債務者も債務者に対して履行することを妨げないとされています。
債権者と債務者の債権の相殺
債権者が代位権を行使し、債務者に代わって第三者債務者から直接金銭の支払いを受けた場合、債務者への金銭返還義務と、自身の債権の返還として請求できる権利という相反する状況が発生します。
実務的な運用では、同債権は債権者の自働債権として相殺できると解釈されています。本来的に債権者代位権は、他の債権者に対する優先弁済権はもちませんが、相殺によって事実上の優先弁済権を得ているといえるでしょう。
債権者代位権の行使手続き
債権者代位権は、債務者の代理人としてではなく、自身の名で実行できます。行使の方法は、裁判所に訴訟を提起する方法と、第三債務者に対し内容証明郵便を送付するなどの裁判外での方法があります。ただし、裁判外で行う場合は、第三債務者が任意に応じることになるため、法的拘束力を持ちえません。
行使にあたっての手続きの流れ
ここでは、裁判で代位権行使を行う際の、一般的な手続きの流れを解説します。
1.債権者代位訴訟の提起
債権者が裁判所に代位訴訟を提起します。裁判上で代位権行使を行う場合には、裁判所の許可が必要です。債権者は自身の名で裁判所に訴状を提出します。
2.債務者への訴訟告知
債権者は、訴訟により債権者代位権を主張したときは、債務者に対し遅滞なく訴訟告知を行う必要があります。訴訟告知とは、訴訟の当事者が、訴訟の対象となる第三者に対し、訴訟の事実を通知することです。訴訟告知は、訴訟告知書を裁判所に提出して行います。
訴訟告知により、訴訟の結果の効力を告知された側に及ぼすことができます。
債権者代位権の制限
債権者代位権は、特定の債務に対してのみ認められます。すべての債務に対して代位権を行使できないので注意が必要です。債権者代位権の目的となりえない権利を抑えておきましょう。
一身専属権
一身専属権とは、その権利を行使するか否かが債務者の意思に委ねられる権利のことです。
例えば、親族間の扶養請求権や財産分与請求権、慰謝料請求権などです。これらは、特定の者のみに帰属する権利であり、他の者に移転しないという性質があります。一身専属権は、権利者固有の権利という特徴から、債権者の代位行使の目的として認められません。
差押えを禁止された権利
差押えを禁止された権利とは、例えば以下のようなものです
- 給料債権
- 年金受給権
- 生活保護給付金
これらの権利は、差押えにより生活の破綻をきたす恐れがあります。債務者が生活できなくなるような差押えは民事執行法などの法律で禁止されています。
代位権は、差押えをする前段階の準備として実行される側面があるため、差押えを禁止されている権利はそもそも代位権の目的とはなりえません。
代位権行使の際の注意点
債権者代位権を行使する際には、いくつかの注意点があります。ここでは実務において留意しておくべき重要な注意点を解説します。
第三債務者の抗弁権の有無
債権者代位権を行使する際は、債務者の保有する債権がどのような状態であるかの事前確認が欠かせません。なぜなら、代位権の行使に対しては、第三債務者は債務者に対して有する抗弁権を債権者に対しても行使できるからです。
例えば、債務者が第三債務者に対し商品100万円を売り上げ、代金回収を行う権利をもっていたとします。しかし第三債務者に商品の引渡しが未だ行われていない状況である場合、第三債務者は同時履行の抗弁権を発動し、債権者代位権による支払を拒むことができます。
また、債権には時効があるため、第三債務者が裁判で時効を主張してくる可能性も否めません。第三債務者が時効消滅の抗弁を主張してきた場合、裁判では時効の中断事由の有無が争点となります。時効消滅の抗弁によって、裁判長期化の恐れが生じるでしょう。
第三債務者の反対債権の有無
第三債務者が債務者に対する反対債権をもっているときは相殺によって債権者に対抗できます。
反対債権とは、債務者が債権者に対して有する債権のことです。反対債権があると、債務者は債権者に対して支払義務を履行する前に反対債権と相殺できます。相殺とは、お互いに債権と債務を有する者が、その金額の範囲内で債権と債務を消滅させることです。
実務においては、事前に第三債務者の反対債権の有無を確認しておきましょう。
裁判による債権者代位訴訟手続きの適正性
債権者は、債権者代位権の行使において適切な手続きを遵守する必要があります。手続きの不備や不正によって、債権者代位権の有効性が影響を受ける可能性があります。
まとめ
債権者代位権は、債権回収を強化し、債権の保全を図る重要な制度です。債権者は、代位権を行使することで債権を回収することができます。ただし、代位権の行使には厳格な要件があり、濫用には注意が必要です。
債権者代位権の発生要件は以下の3つです。
- 債務者が無資力で債権保全の必要性がある
- 債務者の権利不履行
- 被保全債権および被代位権利がともに履行期にある
債権代位権を行使することで以下のような効果があります。
- 第三債務者から債権者への直接の支払いまたは引渡し
- 債務者は代位権行使を防止できない
- 債権者と債務者の債権の相殺
債権者代位権の行使手続きは、裁判外でも行えますが、裁判により訴訟提起することで第三債務者への法的拘束力が生じます。
債権者代位権はすべての代位行使権に行使できるわけではなく、以下の権利には行使できないため注意しましょう。
- 一身専属権
- 差押えを禁止された権利
代位行使の際の注意点として、事前に債務者が持つ被代位権利の状態を確認しておきましょう。具体的な注意点として以下を抑えましょう。
- 第三債務者の抗弁権の有無
- 第三債務者の反対債権の有無
- 裁判による代位訴訟手続きの適正性
企業の財務担当者は、債権者代位権を正しく理解し活用することで効果的な債権回収が可能となります。正確な理解と適切な手続きの遵守により、企業の債権回収を強化し、債権の保全を図っていきましょう。
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