債権者が債務者から何らかの支払いを受ける契約がある場合、債務者が支払不能となると債権者は債務者の持つ財産から返済を受けることになります。債務者の持つ財産が債務総額よりも少ない場合、債権者は支払額の全額を回収することが難しくなりますが、それでは債権者の保護が図られず不利益が生じかねません。そこで「先取特権」という考え方が出てきます。
本記事では、先取特権の定義や具体的な内容について解説します。先取特権は当事者間の合意がなくても発生しうる強い権利であるため、その範囲は法律によって細かく具体的に定められています。内容を正確におさえ、権利を正しく主張できるようにしておきましょう。
先取特権とは?
先取特権という概念は、債務者から返済を優先的に受け取ることができる特別な権利を指します。複数の負債を抱えている債務者において、すべての返済が滞りなく行われているうちは問題ないのですが、返済遅延や破産、倒産が発生した際には、債務者が持つ財産をどのように返済にあてるかが問題となります。この時、先取特権がある債権者は、他の債権者よりも先に債務者からの返済を受ける権利があります。
先取特権には以下のような特徴があります。
- 優先弁済的効力
- 対抗力
- 追求力
この3つの効力があります。このうち優先弁済的効力は、先取特権の定義として前述している「他の債権者よりも優先して債務者から返済を受ける権利」のことです。対抗力とは、特に登記などしなくても相手方に先取特権を主張できること、追求力とは不動産の場合に第三者に対しても先取特権を主張できることです。
先取特権の種類
先取特権には主に3つのカテゴリーが存在し、これらは債権者が優先的に返済を受けることができる財産の範囲によって区別されます。
一般先取特権
一般先取特権は、返済の対象となる財産が限定されない先取特権です。具体的には、優先順位が高い順に次の4つの種類があります。
- 共益費用:債権者が自らや他の債権者の利益のために債務者の財産に対して費やした費用。
- 雇用関連費用:従業員が雇用主に対して給料の支払いを要求する場合。
- 葬儀費用:故人に対して葬儀サービスを提供した業者が請求できる費用。
- 日常品の供給費用:電気やガスなどの公共サービスの料金が他の債権よりも優先される場合。
一般先取特権は、債務者の財産全体からこれらの費用を優先的に回収することができます。ただし、一般先取特権は動産先取特権や不動産先取特権に比べて優先順位が低くなることがありますが、共益費用に関しては、状況に応じて他の先取特権よりも優先して回収されることがあります。
動産先取特権について
動産先取特権は、債務者の特定の動産に対して適用される権利です。以下の8つのケースがこの種類に含まれます。
- 不動産の賃貸借に関わる費用:賃貸物件の土地や建物に設置された動産を通じて、賃料や関連する費用を優先して回収可能。
- 旅館の利用料金:宿泊客が支払うべき宿泊料金や食事代を、客の持ち物から優先して回収可能。
- 運送に関する費用:旅客や荷物の運送費用を運送に使用された手荷物から優先して回収可能。
- 動産の保存にかかる費用:動産の保管や保護に要した費用を、該当する動産から優先して回収可能。
- 動産の売買に関する代金:販売された動産から、その代価および利息を優先して回収可能。
- 種苗や肥料の供給に関する代金:提供された種苗や肥料の代金を、利用された土地で収穫された作物から1年以内に優先して回収可能。
- 農業労務に対する賃金:農業に関わる労働者が、直近1年間の労働で得られた作物から賃金を優先して受け取ることができる。
- 工業労務に対する賃金:工業分野での労働に対して、直近3ヶ月間の労働で製造された製品から賃金を優先して受け取ることができる。
これらのケースでは、特定の動産に関連する費用が未払いの場合、その動産を通じて費用を優先的に回収することが可能となっています。
不動産先取特権について
不動産先取特権は、特定の不動産に関連して発生する権利で、主に次の3つのシナリオに適用されます:
- 不動産の維持管理費用:不動産の価値を維持するために必要な費用を優先的に回収可能。
- 不動産関連の工事費用:建築設計や建設にかかる費用を、該当する不動産から優先的に回収可能。
- 不動産の取引における代金:売買契約において、未払いの代金が存在する場合に優先的に回収可能。
ただし、第1項と第3項の費用は発生した費用に基づき、第2項の工事費用は予算に基づいて登記する必要があり、この手続きがないと先取特権の効力は生じません。実際のところ、これらの先取特権はあまり活用されていないのが実情です。
動産売買における先取特権は、先に挙げた8種類の動産先取特権の中で「動産の売買」に直接関連します。この特権は、動産を売買する際に代価や利息の支払いがなされない状況下で、該当する動産を優先的に返済資源として利用することが可能な権利を意味します。
動産売買先取特権とは
動産売買先取特権とは、動産先取特権の項で解説した8種の先取特権のうち「動産の売買」が該当します。動産の売買にあたり、その対価および利息の支払いが行われなかった場合に当該動産を債権の返済として優先的に受けられる権利です。
例として、商品を後払いで提供した際に支払いが滞った場合、提供された商品を代金の回収手段として優先的に取り戻すことができる権利があります。これは個人顧客に限らず、企業間取引においても適用されるため、製品を製造し納品したものの代金を受け取れない場合にもこの特権が有効に働きます。
動産売買先取特権が適用される場合、該当する動産が既に債務者から第三者へ移転されていることもあり得ます。この際には「物上代位」という原則が適用され、第三者が持つ動産に対しても先取特権を行使できます。具体的には、債務者が第三者への転売から得た代金を対象に権利を行使することになりますが、この代金がまだ債務者に支払われていなければ、その回収は不可能です。したがって、迅速な行動が必要とされます。
動産売買先取特権の行使方法
動産売買先取特権を実際に行使するには、債務者と債権者間の合意や契約書の記載は必要なく、自動的に効力を発揮します。ただし、権利行使に際しては、売買契約書、請求書、債務者が第三者に動産を転売した場合の証明書類など、関連する書類の準備が必須です。
売買契約とそれに関連する書類が揃ったら、これらの書類を裁判所に提出し、動産売買先取特権の認定を受ける必要があります。裁判所からの認定を得られれば、先取特権を利用して該当動産の回収に着手できます。
まとめ
先取特権は、債務者からの返済が滞った際に、債権者が債務者の財産から優先して返済を受ける権利です。動産先取特権、不動産先取特権、および一般先取特権の3種類があり、動産売買先取特権は動産先取特権の一つで、商品売買の際に代金が支払われないケースに適用されます。この特権は契約や登記の必要なく効力がありますが、その行使には適切な書類を裁判所に提出し、権利の認定を得ることが必要です。
売掛金保証サービス「URIHO(ウリホ)」は、取引先の倒産や未入金時に取引代金を代わりにお支払いするサービスです。事前に取引先に保証をかけておくことで、与信管理をしなくても安心して取引を行うことができます。また、督促業務に時間や労力を割く必要がなくなり、営業活動に集中することが可能です。
また、URIHOはすべての手続きがWeb上で完結し、スピーディに利用開始することが可能です。売掛金の回収にご不安がある場合は一度導入をご検討ください。