企業間取引を行うなかで、「相殺予約(そうさいよやく)」というものを聞いたことがあると思います。
契約書に記載されている場合が多いですが、あまり理解していないまま契約を結んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、相殺予約とは具体的にどういうものなのか、なぜ有用なのかなどに関してわかりやすく解説します。
相殺予約とは?
まず、「相殺」とは、当事者の2者がそれぞれ同じ種類の債権を持っている場合に、それらを差し引きすることで債権を消滅させることを指します。
つまり、自社が相手方に対して持っている債権と債務を差し引きすることにあたります。
また、相殺するには2者が持っている債権の両方が弁済期にある(支払期日が到来している)必要があります。
ただ、相手方が自社に対して持つ債権(自社が相手方に対して持つ債務)については期限の利益を放棄すれば良いので、実際はあまり気にする必要がありません。
よって相殺する際は、自社が相手方に対して持っている債権の弁済期が到来しているかが重要です。
しかしこの規定上では、相手方の経営状況が悪化しているなどによって債権が回収できない危険性が発生しても弁済期が到来するまでは相殺を行えないということになります。
ここで役に立つものが「相殺予約」です。
相殺予約とは、弁済期前の債務であっても、相殺ができるように予約しておく条項のことです。
これによって、弁済期が到来しているかに関わらず相殺を行えるようになります。
相殺予約の価値
たとえば相手方が不渡りを出したなど、明確に信用状態が低下するような事態が発生した場合は、「期限の利益喪失」を適用できます。
そうすると、自社が相手方に対して持っている債権の弁済期が到来したことになり、通常の相殺が行えます。
ただしこれは、経営状況の悪化など信用低下があまり明白ではない場合は適用できません。
それに対して相殺予約であれば、弁済期が到来したかに関わらず自社の一存で相殺することができます。非常に有用なものであると言えるでしょう。
債権回収の手段としても有効
相殺予約は債権の回収手段としても有効です。
たとえば、相手方に対して
弁済期が到来している100万円の売掛債権と
弁済期が到来していない30万円の支払債務
を持っている場合について考えてみましょう。
相殺予約条項にもとづいて相殺を行うことによって30万円分を決済することで、売掛債権の残額70万円が残ります。
つまり、取立てなどを行うことなく相手方から30万円分の債権を回収したことになりますし、かつ支払手続きなどを行わずに自動的に債務を弁済したことにもなります。
相殺したところで実際に現金が発生するわけではありませんが、会計上では負債が減るためメリットが大きいと言えます。
このように、相殺予約は債権回収や手間の削減につながります。
さらに相殺は意思表示のみで効果が生じるため、商取引において多く用いられます。
相殺予約に関する条項
相殺予約を有効とするためには、契約書に相殺予約に関する条項を盛り込む必要があります。
相殺予約に関する条項はたとえば以下のように記載されます。
「甲が乙に債務を負担する場合は、甲は乙に対する債権の弁済期の到来の有無を問わず、いつでも当該債権と甲が乙に対して負担する債務とを対当額にて相殺することができる」
また、債権譲渡を禁止する特約を付けておくこともおすすめです。
相殺が可能な条件として「当事者双方が互いに同じ種類の(=対立する)債権を持っていること」が規定されていますので、もしも債権が第三者に譲渡されてしまった場合はこの条件を満たせず、相殺が行えなくなってしまいます。
万が一を防ぐためにも、債権譲渡を禁止しておくと良いでしょう。
まとめ
今回は相殺予約について解説しました。
契約書に相殺予約に関する条項を含めておくことで、いざ相殺を行おうとした際に一番の障害となる弁済期の部分をカバーできますし、債権回収の手段としても有効です。
自社で契約書を作成する際だけではなく、他社が作成した契約書にサインする際などにも、相殺予約に関する条項を確認しておくことをおすすめします。
債権の全額を確実に回収するには
ただ、確かに相殺予約は債権回収手段として使えますが、あくまで相殺が可能になるというものです。
自社の債務は少額で債権が高額である場合などは、相殺したとしても債権回収という観点ではあまり意味をなさないことがあります。
また、当然ですが自社が相手方に対して債権のみしか持っていない場合、相殺は不可能ですので、債権の全額が貸倒れとなってしまうリスクが存在します。
相殺するだけではなく確実に債権の全額を回収したい、相殺できるような債務は持っていないが貸倒れは避けたい、という方には売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」がおすすめです。
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