訴訟制度の1つに、「少額訴訟」というものがあります。
これは未入金の債権が発生してしまった場合の対応策として非常に有用な制度です。
この記事では、少額訴訟とはどのような制度なのか、手続きの流れや必要なものに加え、メリット・デメリットや費用についてもわかりやすく解説します。
少額訴訟とは?
「少額訴訟」とは、60万円以下の金銭的債権を請求する場合に原則1回の期日で判決まで出してもらうことのできる特別な訴訟制度のことです。
通常の民事訴訟と比べて手続きが簡易で、かつ申立費用も安く収まるなど、債権回収における法的手段の中ではハードルが低いと言えます。
また、条件である「60万円」には違約金や利息などは含みません。
よって、違約金や利息を差し引いた金額が60万円以下であれば少額訴訟を用いることができます。
少額訴訟を利用する4つのメリット
少額訴訟には主に4つのメリットがあります。
裁判所に1回行くだけで判決がもらえる
基本的に、1回目の審理で終了することになっており、出廷したその日のうちに判決が言い渡されます。
通常の民事訴訟では口頭弁論が複数回に及ぶ場合がありますし、判決も口頭弁論とは別の日に言い渡されます。
複数回出廷する手間や判決が出るまでの心理的負担が抑えられるので大きなメリットです。
和解による解決ができる可能性がある
少額訴訟を起こすことで、和解による解決も期待できます。
裁判所によると、少額訴訟のおよそ4割が和解によって解決しているようです。
相手方との今後の関係なども考えると、和解で解決できる可能性も期待できる点はメリットと言えるでしょう。
支払いに応じない場合は財産の差し押さえができる
少額訴訟で裁判官による判決が出たにもかかわらず、相手が支払いに応じない場合、少額訴訟債権執行という手続きで、財産を差し押さえることができます。少額訴訟債権執行で差し押さえることができる財産は以下の通りです。
・相手方名義の預貯金
・雇い主から相手方が受け取る給料
・所有不動産の入居者から相手方が受け取る家賃収入
・所有不動産の入居者から相手方が受け取る敷金(保証金)返還請求権
一般的に、財産の差し押さえは強制執行と呼ばれています。強制執行で差し押さえられる財産は、預貯金や給料だけではなく、不動産や自動車貴金属など多岐にわたります。
しかし、強制執行手続きは複雑で、手間がかかります。そのため、少額訴訟においては、簡単に手続きができる少額訴訟債権執行という制度が設けられています。
費用が安く済む
原則として1日で解決するため何度も裁判所に行く必要がなく交通費も少なくてすみます。裁判所は原則として平日しか審理を開いていないため弁護士に依頼していないときには期日のたびに仕事を休むことになりますが、少額訴訟の場合その必要はありません。
少額訴訟のデメリット4つ
一方で、少額訴訟にはデメリットも存在します。
不利な判決が出ても控訴できない
通常の訴訟では、判決に対して不服がある場合は「控訴(こうそ)」を行い、高等裁判所に判決を委ねることが可能です。
しかし、少額訴訟の場合はそれができません。
万が一自身にとって不利な判決が出た場合であってもやり直しがきかないので、注意が必要です。
相手の希望によっては通常訴訟になる可能性も
相手方から通常の訴訟を希望する申し出があった場合、少額訴訟ではなく通常の民事訴訟を行うことになります(通常の訴訟を希望する際に特別な理由をつける必要もありません)。
そうすると訴訟が長期化してしまう可能性があります。
また、もしここで相手方が弁護士を立ててきた場合は少々不利になってしまうかもしれません。
もちろん弁護士なしで行うことも可能ですが、自身も弁護士を立てるか、弁護士に相談して準備した資料についてだけでもアドバイスをもらうなどをしたほうが心強いと言えるでしょう。
訴訟の準備が手間
詳しくは後述しますが、少額訴訟をするために必要な資料などは自力で作成し揃えなければなりません。
また、1日ですべてが決まるため期日までに必要な主張を記載した書類を用意し、証拠もすべて用意しておかなければなりません。
もし必要な主張を忘れたり証拠の提出ができなかったりした場合には敗訴することになります。そして、控訴もできないため債権の回収が事実上不可能となります。
こうした事態にならないために準備にあたって手間と時間がかかってしまう点はデメリットと言えます。
利用回数に制限がある
少額訴訟には回数の制限が設けられています。同じ裁判所に対して1年間に10回までしか少額訴訟を利用することができません。
訴訟をするために必要な書類
(1)訴状
自身と相手方の氏名や住所といった基本的な情報や、裁判所にどのような判決を求めるかなどを記載したものです。
定型的な用紙はありませんが記載事項は規定されているので、不安な場合は専門家に相談すると良いでしょう(裁判所によってはWebサイトなどで説明されている場合もあります)。
(2)訴状副本
「副本」とはコピーのことで、訴訟をする相手の数だけ必要です。
(3)(相手が法人の場合)登記事項証明書
訴訟をする相手が法人の場合は必要です。
登記事項証明書は登記所や法務局にて600円程度で取得できますが、Webでも交付請求が可能です。
Webの方が窓口請求より受付時間が長く、手数料も100円ほど安く収まります。
(4)証拠資料
少額訴訟でも証拠が必要です。 詳しくは以下で解説します。
証拠となる資料一覧
以下のような資料が証拠として認められます。
・契約書
・請求書
・見積書
・領収書
・メール文のコピー
・電話の録音 など
挙げたものの上から順に有効度が高いとされています。したがって契約書が最も有効です。
これらの証拠は手元にあるだけ提出するようにしましょう。
万が一以上のような証拠が全く存在しない場合、少額訴訟で債権を回収することは難しくなってしまいます。
少額訴訟の流れ
少額訴訟の流れは以下のようになっています。
(1)訴状を提出する
相手方の住所を管轄する簡易裁判所に訴状を提出します。郵送による提出も可能です。
(2)出廷日の連絡が来る
裁判所に訴状が受理されると、出廷日の連絡があります。
このとき裁判所書記官から、事実関係の確認や追加の書類の依頼などをされることがあります。
(3)事前聴取
少額訴訟の事前準備として、裁判所の書記官の要求に応じて事実関係の確認や追加の書類の提出、証人の用意をします。
(4)答弁書が届く
相手方の反論などが書かれた答弁書が届きます。目を通しておきましょう。
(5)法廷で審理が行われる
原告(自分)・被告(相手方)・裁判官・書記官などによって審理が行われます。
審理では提出書類や証人などにもとづいた証拠調べが行われ、基本的に30分〜2時間ほどで終わります。
場合によっては審理のやり取りのなかで和解が成立することがあります。
(6)判決
審理終了後、判決が言い渡されます。
判決の内容は相手方の資金力などを踏まえて判断され、支払猶予が適用されたり分割払いが認められたりと様々です。
少額訴訟にかかる費用
少額訴訟をするにあたっての費用は、大抵の場合は5千円~1.5万円ほどですみます。
主にどのようなものに対して費用がかかるのかを以下でひとつずつ解説します。
(1)印紙代
訴訟を申し立てる際に手数料が発生します。手数料は印紙で納付します。
印紙は郵便局などで購入することができ、回収したい債権の金額(訴額)によって変動します。
訴額 | 手数料 |
~10万円 | 千円 |
~20万円 | 2千円 |
~30万円 | 3千円 |
~40万円 | 4千円 |
~50万円 | 5千円 |
~60万円 | 6千円 |
(2)郵券
郵券(郵便切手代)も必要です。
値段は裁判所ごとに異なりますが、基本的に4千円前後かかります。また、原告と被告の数によっても変わるため、事前に裁判所に連絡の上、書記官に確認しておきましょう。
少額訴訟を行う際は以上の印紙代・郵券がかかります。
また、これは判決が出た後の話となりますが、相手方が判決に従わず支払いがない場合は強制執行(差し押さえ)が行えます。
(3)強制執行の費用
強制執行を行う場合は以下の費用が別途必要となります。
・印紙代
1債務者あたり4千円の印紙代が必要です。
・郵券(郵便切手代)
前述と同様、裁判所ごとに異なりますが4千円ほどかかります。
少額訴訟を成功させるポイント
簡易的な裁判である少額訴訟であっても、れっきとした裁判であることには変わりなく、下された判決は強制力を持ちます。
少額訴訟の審理は原則1回のみで行われるため、いわば一発勝負になります。そのため、事前の十分な準備が大切と言えるでしょう。
証拠を多く用意する
裁判官は当事者の主張と証拠に基づいて法律上の判断を下すので、主張を裏付ける十分な証拠がなければ敗訴してしまう可能性があります。
できるだけ多くの証拠があればそれだけの主張の正当性が認められるので、その場で有効といえる証拠を準備しておきましょう。
事実経過の時系列一覧表を作成しておく
被告とのやり取りや経緯を一覧にしておくと裁判官が状況を把握しやすくなります。
用意した証拠がどの証拠なのかがわかりやすくなり、主張の裏付けとしてより強固なものになります。
また、時系列を整理しておくことによって自分の主張に対して相手の反証が予想できるため、その対策を準備することも可能です。
債務者の財産調査をしておく(債権回収で少額訴訟を利用する場合)
勝訴しても債務者が判決に応じず支払われない可能性があります。
債権回収のために債務者の財産を差し押さえる必要がありますが、そのためにも事前に債務者の財産を調査しておく必要があります。
手間や費用がかかる少額訴訟
少額訴訟は、通常の訴訟と比べると手間やコストは抑えられるものの、資料の作成や裁判所への出廷など、少なからず負担がかかってしまいます。
また、訴訟を起こしたところで絶対に全額回収できるとは限りませんし、支払猶予などがついた場合は手元に代金が来るのがさらに遅れてしまいます。
そのようなリスクを抑えられるのが、売掛金保証サービスの「URIHO(ウリホ)」です。
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この機会に試してみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は少額訴訟について解説しました。
通常の民事訴訟ではコストに見合わずに断念してしまうような少額な債権であっても、この制度を利用すれば諦めずにすむのではないでしょうか。
もし不安な点などがある場合は弁護士などの専門家に相談するのも1つの手です。
また、少額訴訟の他にも債権回収に有用な手段はいくつかあります。
訴訟を起こす前に即決和解ができないかを確認したり、場合によっては相殺や期限の利益喪失を用いたりすることも可能です。
自社のために、より確実な債権回収を心がけましょう。