「あの会社、決算は黒字だったはずなのに」
―― その取引先から、突然「担当者が退職しました」という連絡が来ることがあります。
2026年10月、東京商工リサーチが公表した調査によると、
2026年1-9月に早期・希望退職募集が判明した上場企業は22社、対象人数は5,345人でした。
前年同期の34社・1万1,909人から、社数は35.2%減、人数は55.1%減と大きく減少しています。
数字だけを見れば「落ち着いた」と読めます。しかし、中身を見ると別の姿が見えてきます。
募集した22社のうち、14社が「黒字企業」
今回の調査で最も注目すべきは、募集企業の損益です。
直近決算の最終損益(単体)は、黒字が14社(構成比63.6%)、赤字が8社(同36.3%)でした。
しかも、黒字企業の募集人数は3,406人と全体の63.7%を占めています。
つまり、早期・希望退職は「業績が悪化した会社が最後に選ぶ手段」ではなくなりつつあります。
人手不足が深刻であっても、構造改革や不採算部門の整理、年齢層の適正化を進める上場企業は後を絶たず、黒字でも構造改革に踏み切る動きは定着しつつあります。
実例に見る「黒字のリストラ」
具体的な事例が、その傾向を裏づけます。
住友重機械工業は2026年2月、経営資源を成長性の高い事業領域へ重点投入するため、国内グループ全社で500名規模の人員削減を発表しました。沖電気工業はAIやDXの進展に伴う業務プロセスの変化に対応するため、55歳以上かつ勤続10年以上の従業員などを対象とした制度を実施し、668人が応募しています。
一方、KADOKAWAのように2026年3月期に赤字へ転落して募集に踏み切る企業もあり、赤字8社にはTHKやシャープも名を連ねます。「黒字だから安全」と「赤字だから危険」の二択では読めないのが、今のリストラの実態です。
東証プライムが9割 ― 変化は「大きな会社」から始まる
市場区分では、22社のうち東証プライムが19社(86.3%)、募集人数でも5,044人と9割超(94.3%)を占めました。産業別では製造業が20社(90.9%)と突出し、なかでも電気機器が8社(36.3%)、化学5社、機械3社と続きます。
ここが取引先を見る側にとって重要です。上場企業の人員削減は、発注量の見直し、取引窓口の変更、稟議プロセスの長期化という形で、下請け・協力会社に数カ月遅れて波及します。とくに製造業はサプライチェーンが深く、1社の構造改革が複数の取引先の売上に影響します。
「担当者が消える」とき、何が起きるのか
人員削減そのものは、取引先が倒産する話ではありません。しかし、取引先の支払い能力や支払いサイトが変わる前兆になり得ます。
担当者が退職し、窓口が変わる。発注が減り、単価の見直しが持ち込まれる。支払いサイトの延長が打診される。こうした変化は、決算書の数字より先に現場で起きます。この秋以降は、値上げと個人消費の影響も注目され、再び希望退職の募集が増勢に転じることが懸念されます。
「黒字だから大丈夫」
――その前提が崩れつつあるなら、取引先を見る基準そのものを更新する必要があります。
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小林 邦洋
株式会社ラクーンフィナンシャル 審査部 部長
リース会社や保証会社の与信管理セクションにて、長年にわたり信用リスクの調査・分析に従事。現在はラクーンフィナンシャルの審査部部長として、膨大な企業データの分析と審査スキームの構築を指揮する「審査のプロ」。
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