「まさか、あの会社が」
―― 2026年10月、多くの経営者がそう感じた出来事がありました。
10月19日、GMOインターネット株式会社が提供する「お名前.com デスクトップクラウド」で、顧客からの問い合わせをきっかけに調査が始まりました。10月20日には第三者による不正なプログラムの設置が確認され、10月21日4時、被害拡大を防ぐため全プランのサーバーが停止。10月27日12時30分には、攻撃者とみられる者が同社および顧客に関する情報を公開したことを確認しています。
今回は、この事件から見えてくる「リスクへの備え方」を、私たち中小企業の経営に引き寄せて考えてみます。
何が起きたのか ― 約1週間で表面化した「見えない侵食」
時系列を追うと、事態の重さが伝わります。
10月19日に調査を開始し、翌20日には不正なプログラムの設置を確認。21日4時には全サーバーを停止し、同時刻に脅迫メールを受信しています。22日には警察へ相談、24日には利用者全員への一律5,000円の見舞金と、不正取引による損失の補償、代替サービスの6カ月無償提供を決定しました。そして27日、攻撃者による情報公開が確認されました。
同社は「本サービスのシステムにセキュリティ上の問題が存在し、お客様の情報が外部に持ち出された事実を確認しております」と明言し、攻撃者からの要求には応じない方針を示しています。あわせて、攻撃者の特定につながる情報への報奨金を総額100万米ドル(約1億5,000万円)を上限として設定しました。
「セキュリティの会社」でも、完全ではなかった
この事件で最も重い事実は、被害を受けたのがセキュリティ事業も手がけるグループだったという点です。
GMOインターネットグループは、インターネットインフラ事業と並んでセキュリティ事業を主要セグメントに置く企業です。それでも、システムの脆弱性を突かれ、顧客の情報が持ち出され、取引口座が不正に操作される事態を防げませんでした。
ここから学べるのは、「うちは大丈夫」という前提こそが最大の弱点だということです。
規模が大きく、専門人材がいて、対策に投資している企業でも、完全な防御はありません。ましてや、セキュリティを「専門家に任せている」で終わらせている企業なら、なおさらです。
備えのコストは、事故のコストよりはるかに安い
今回の対応を見ると、事故が起きた後に必要になるコストの大きさがわかります。
全サービス停止、警察・関係機関への対応、顧客への補償、代替サービスの6カ月無償提供、報奨金1.5億円。
加えて、失われた信用は金額に換算できません。これらはすべて、事故が起きた後に発生したコストです。
一方で、事前の備えにかかるコストは、これに比べれば桁が違います。システムの点検、権限管理の見直し、従業員教育、保険や保証による備え。どれも「今すぐ利益を生む投資」ではありませんが、事業を続けるための前提です。
そして厄介なのは、備えの効果が「何も起きない」という形でしか現れないことです。
だから後回しにされ、だから油断が生まれます。
売掛金も、まったく同じ構造をしている
ここで視点を変えます。売掛金のリスクも、システムセキュリティと驚くほど似ています。
- 普段は何も起きない。だから「うちの取引先は大丈夫」と思ってしまう
- 異変は外から見えにくい。決算書も、日々のやり取りも、平常時は問題なく見える
- 起きたときの損失は大きい。1社の未回収が、自社の資金繰りを一気に崩す
- 事前の備えは、「何も起きない」という結果になるので、効果を実感しにくい
システムが攻撃を受けて初めて脆弱性に気づくように、取引先が倒れて初めて与信の穴に気づく。
構造は同じです。そして、気づいたときには手遅れになりがちです。
セキュリティを高めることは、経営の基本である
今回の事件が突きつけたのは、技術の話ではありません。
「起きるかどうかわからないリスクに、どれだけ真剣に向き合えるか」という経営の姿勢です。
システムセキュリティも、売掛金のセキュリティも、目的は同じです。会社を守り、事業を続け、従業員と家族の生活を守る。そのために必要なコストを、平常時に払えるかどうか。それが経営力の差になります。
「あまり起きないから」と油断していると、いざというときに大きな問題になります。セキュリティを高く保つことは、特別な対策ではなく、経営の基本です。
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システムのセキュリティを高めるのと同じように、売掛金のセキュリティも、平常時のうちに高めておく。
まずは無料の取引先チェックから、自社の売掛金にどれほどのリスクが潜んでいるか確認してみましょう。
【出典】
GMOインターネットグループ
「【重要】「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスに関する現在の対応について(第10報)」
https://group.gmo/info/alert/2026102703
GMOインターネットグループ「お客様へのお見舞金のお支払いと不正取引による損失の補償について(第4報)」
https://group.gmo/info/alert/20261024/
小林 邦洋
株式会社ラクーンフィナンシャル 審査部 部長
リース会社や保証会社の与信管理セクションにて、長年にわたり信用リスクの調査・分析に従事。現在はラクーンフィナンシャルの審査部部長として、膨大な企業データの分析と審査スキームの構築を指揮する「審査のプロ」。
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