企業が事業を続ける中で、売上の減少や資金繰りの悪化により、借金や仕入代金の返済が難しくなることがあります。こうした場合に利用できる法的な再建制度の一つが「民事再生」です。
民事再生は、企業が持つ財産をすべて手放さずに、債権者と調整しながら返済計画を立て直す仕組みです。再建のために裁判所が関与し、債権者も一定の範囲で協力するため、事業を存続させながら債務整理を進めたい企業にとって有効な手段といえます。
この記事では、民事再生の基本的な仕組みや手続きの流れを分かりやすく解説します。併せて、取引先が民事再生を申し立てた場合に取るべき対応や注意点も紹介します。
民事再生とは?
民事再生は、借金や仕入代金などの返済が難しくなった企業が、事業を続けながら債務を整理し、経営の立て直しを目指すための法的な制度です。
民事再生の大きな特徴は、「会社を残す」ことを前提にしている点です。民事再生では再生計画の認可を受ければ、手続終了後も会社が存続し、事業を続けられます。これまで築いてきた技術・ノウハウ、取引先との信頼関係、企業ブランドなどの価値を保てます。
また、経営陣を交代させる必要がないのも大きなメリットです。会社更生手続では経営権が更生管財人に移りますが、民事再生では現経営陣がそのまま会社を運営できます。経営判断を維持したまま再建できるため、従業員や取引先にも安心感を与えやすい仕組みです。
債務を大幅に減額できる点も魅力です。再生計画が認可されると、借入金や買掛金などの債務が圧縮され、返済期間も延長されるのが一般的です。民事再生を申し立てると、銀行などの金融機関が保有する債権との相殺が禁止されるため、会社の預金が差し引かれる心配もありません。
このように、再建に必要な運転資金を確保したまま経営を立て直せるので、会社の価値を守りつつ、現実的な返済と経営再建の両立を図るために利用されています。
民事再生の目的
民事再生の目的は、債務を減額・分割し、現実的な返済計画を立てて事業を継続させることにあります。
債権者の理解と協力を得ながら、企業が自主的に再建計画を立てられる点が民事再生の特徴です。債権者と調整しながら無理のない返済スケジュールを策定することで、経営を立て直し、雇用や取引関係を維持できます。
例えば、次のようなケースでは民事再生が有効に働きます。
・売上が減少し、銀行返済が重荷になっている場合:金利や元本の一部を減額して、返済期間を延長できる
・大口取引先の倒産により資金繰りが悪化した場合:一時的な資金不足を調整し、再生計画により事業継続を図る
・資産はあるが現金が不足している場合:資産を保持したまま、裁判所の関与で再建を進める
民事再生の手法
民事再生には、企業の状況や再建の見込みに応じて、いくつかの進め方があります。代表的な手法は「自力再建型」「スポンサー型」「清算型」の3つです。
自力再建型は、外部の支援を受けずに自社の事業収益をもとに債務を返済し、経営を立て直す方法です。
経営者が継続して事業を運営しながら、再生計画を立て、債務を圧縮・分割返済します。典型的な再生手続の形であり、会社の独立性を保ちながら再建できる点が特徴です。
ただし、経営環境が悪化して資金繰りがひっ迫している場合には、自力での再建が難しいケースもあります。そのため、実務上は次に紹介するスポンサー型の手法が選ばれることが多いです。
スポンサー型は、外部の企業や金融機関などが「スポンサー」として支援し、事業を引き継ぐ方法です。
スポンサーが出資や融資をして再生企業の事業を承継することで、債権者への弁済が可能になります。スポンサー選定は公平性を保つために入札方式で行うのが一般的で、透明性と公正性が重視されます。
この方法では、スポンサーによる支援を受ける代わりに再生企業は事業を譲渡することが多いので、会社自体は最終的に清算される場合もあります。
清算型は、会社そのものを清算する一方で、事業の価値をほかの企業に引き継ぐ方法です。
破産のようにすべてを処分するのではなく、事業譲渡や会社分割によって事業を別の会社へ移転します。譲渡によって得た資金を債権者への弁済に充て、事業自体は存続させる仕組みです。
再生企業は最終的に解散・清算される点で破産手続と共通しますが、事業や雇用が維持される点がメリットといえます。
民事再生の要件
民事再生の手続を利用するには、法律で定められた一定の条件を満たさなければなりません。
民事再生を開始するための要件は、「再生手続開始の申立てができる要件」と、「裁判所が開始決定を下すための要件」に整理できます。
再生手続開始の申立てができる要件
・破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき
破産のようにすでに支払不能になっていなくても、「おそれ」がある段階で申立てが可能です。
・事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を支払うことができないとき
支払能力が一時的に不足しており、今後の支払いに困難をきたす状況を指します。
裁判所が開始決定を下すための要件
以下のような事情がない限りは、裁判所は再生手続開始を決定します。
・再生手続の費用が予納されていないとき
・破産手続や特別清算手続がすでに進行しており、それが債権者全体の利益に適しているとき
・再生計画の作成・可決・認可の見込みが明らかにないとき
・不当な目的で申立てがなされた、または誠実でない申立ての場合
民事再生と破産の違い
民事再生と破産はいずれも債務整理のための法的手続ですが、目的と進め方が大きく異なります。破産が「清算型」の手続であるのに対し、民事再生は「再建型」の手続です。
破産は、支払い不能や債務超過に陥った債務者が、事業を停止して資産を換価し、債権者に公平に分配する清算手続です。
会社や個人が保有する財産はすべて破産管財人によって管理・売却され、得られた資金をもとに債権者へ弁済が行われます。その結果、会社は消滅し、経営者も事業を続けられません。
一方、民事再生は、事業を維持しながら再建を目指す手続です。
裁判所の監督を受けつつ、債務の一部を減額したり、返済期間を延長したりして、無理のない再生計画を立てます。経営陣が引き続き経営にあたり、事業の収益をもとに再建を進められる点が大きな違いです。
民事再生と特別清算の違い
民事再生と特別清算も、同じく「倒産手続」に分類されますが、目的と性質が異なります。民事再生は再建を目指すのに対し、特別清算は事業を整理して終了させることを目的とする制度です。
特別清算は、会社が自主的に解散を決めた上で、裁判所の監督のもとで清算を進める手続です。すでに事業の継続を断念しており、資産や負債を整理して、株主や債権者との清算を進めます。
一方で、民事再生は、会社を残して事業を立て直すための仕組みです。債務を減額したり、返済条件を調整したりすることで、経営を立て直すことを目的としています。
民事再生と会社更生の違い
民事再生と会社更生はいずれも、事業の再建を目的とする「再建型」の法的手続です。
ただし、対象となる企業規模や手続の進め方に違いがあります。
民事再生は、個人事業主や中小企業を含め、原則として誰でも利用できます。経営陣がそのまま事業を継続し、再建計画を自ら策定して進められる柔軟な手続です。裁判所が選任する監督委員の助言を受けつつも、経営の主導権は債務者にあります。
一方、会社更生は、主に大企業を対象とした制度で、株式会社のみが利用できる手続です。
現経営陣は退任し、裁判所が選任する「更生管財人」が経営権を引き継ぎ、再建計画を作成します。民事再生よりも厳格で、すべての債権者の権利関係を統一的に処理できる反面、時間とコストがかかります。
民事再生の手続きの流れ

ここでは、申立てから再生計画の遂行までの主な流れを、順を追って解説します。
1. 民事再生手続き申立て
まず、本店所在地を管轄する地方裁判所に民事再生手続の開始を申し立てます。申立てができるのは、国内に営業所・事業所、または財産を有する法人です。
申立てにあたっては、裁判所に納める予納金や印紙代などの手続費用が必要です。また、あらかじめ再建手法(自力再建型・スポンサー型など)を検討し、申立代理人として弁護士を選任しなければなりません。
2. 保全処分の決定
民事再生の申立てと同時に、弁済禁止を内容とする保全処分の申立ても行うのが一般的です。
申立てが受理されると、裁判所は「弁済禁止の保全処分」を発令します。保全処分が出されると、再生手続開始の申立てから開始決定までの期間において、発令日の前日までに発生した債務については弁済が禁止されます。
3. 監査委員の選任
保全処分を発令すると同時に、裁判所は「監督委員」を選任します。
監督委員は、民事再建の手続に詳しい弁護士が担当するのが一般的で、債務者の財産処分や借入行為を監督します。
監督委員が選任されると、再生会社(債務者)は監督委員の同意なしに重要な取引や資産処分ができなくなります。
4. 債権者説明会
監督委員が選任された後は、「債権者説明会」が開かれます。
説明会の開催は法律上の義務ではありませんが、民事再生手続は債権者の理解と協力なしには進められないため、実務上は多くのケースで開催されます。
債権者説明会では、再生手続の透明性を確保するため、再生会社から次のような事項が説明されます。
・民事再生の申立てに至った経緯や原因
・財産および負債の現状
・今後の手続の進行予定や再生計画の方向性
5. 民事再生手続開始決定
債権者への説明を経て主要債権者の理解が得られ、裁判所が再建の見込みがあると判断すれば、申立てから1~2週間程度で民事再生手続の開始が決定されます。
その後、再生会社は裁判所の監督のもと正式に再建手続へと進みます。
ただし、債権者の大半が反対している場合や、再建の見込みがないと判断された場合には棄却され、破産手続に移行することもあります。
6. 債権届の提出
手続開始決定すると、裁判所からすべての債権者に「再生開始決定通知」と「債権届」が送付されます。
その後、債権者は債権届に以下の事項を記載して、定められた期限内に裁判所に提出しなければなりません。
・債権の金額
・発生の原因
・契約内容や支払期日
債権届を提出することで、債権の全体像が整理され、今後の弁済計画の基礎となります。届出を怠ると債権を失うおそれがあるため、期限を厳守しましょう。
7. 再生計画案の提出
再生会社は、提出された債権届に記載の債権を認否し、全体の債権額を確定させます。確定させた後に「認否書(債権認否一覧表)」を作成して、裁判所へ提出します。その後、裁判所と監督委員が債権を調査し、不正や誤りがないか確認します。
債権の調査後、再生会社は「再生計画案」を作成して裁判所に提出します。再生計画案では、主に以下の内容を定めます。
・債務の減額割合(例:元本の70%を免除)
・弁済方法(分割回数や弁済開始時期)
・再建方針(不採算事業の廃止や新規事業の展開など)
8. 債権者集会・再生計画案決議
提出後、裁判所は債権者集会を開き、計画案を決議します。投票または書面による決議で、次の条件を両方満たすと可決されます。
・議決権者の過半数の同意
・総議決権の2分の1以上の議決権を有するものの同意
要件を満たさなければ、再度債権者集会を開く場合や、手続が廃止されて破産に移行する場合があります。
9. 再生計画の認可・履行
可決された再生計画案に法律上の問題がないことを確認すると、裁判所が「再生計画の認可決定」を出します。これにより、再生計画に基づく弁済や経営再建が始まります。
申立てから再生計画の認可までには、半年程度を要するのが一般的です。
弁済は、再生計画で定められたスケジュールに従い、数年にわたって実行されます。監督委員は、再生計画の履行状況を約3年間監督し、計画が順調に進んでいるかを確認します。
手続きは、次のいずれかの時点で終了します。
・再生計画の弁済がすべて完了したとき
・再生計画の認可決定が確定してから3年が経過したとき
ただし、残りの弁済がある場合は、再生計画に従って支払いを続けます。

取引先が民事再生手続きをした際は?
取引先が民事再生を申し立てたと聞くと、「売掛金は回収できるのか」「今後の取引はどうすればいいのか」と不安に感じる方が多いでしょう。しかし、焦った行動は禁物です。
ここでは、取引先が民事再生手続きを行った場合に取るべき対応を、段階ごとに整理して解説します。
情報を収集する
まず何よりも大切なのは、正確な情報の入手です。再生手続は裁判所が関与する法的手続なので、情報は比較的早く公表されます。
主な情報収集の方法は、以下のとおりです。
案内文書の確認
民事再生を申し立てた企業は、申立直後に主要取引先や債権者に対して、民事再生手続申立てに関する案内文書を郵送・ファクシミリ・電子メールなどで送付します。案内文書には、民事再生申立てに関する情報が網羅されており、初期段階の情報収集にもっとも有用です。
企業によっては、自社のウェブサイトやニュースリリースで申立ての事実を公表することもあります。
信用調査会社のサイトを確認
案内文書が届かない場合や、情報が不足している場合は、信用調査会社の「倒産速報」サイトを活用しましょう。
帝国データバンクや東京商工リサーチなどのサイトでは、民事再生申立て企業の基本情報を迅速に確認できます。
また、申立代理人の連絡先が明記されている場合は、代理人弁護士へ問い合わせることで、再生手続の進行状況を確認できる場合もあります。
ただし、ウェブ上で情報が公開されるまでには時間差があるため、複数の情報源を組み合わせて確認するのが望ましいです。
裁判所での閲覧
より詳細な内容を確認したい場合は、申立てを受理した裁判所で事件記録を閲覧・謄写する方法もあります。
債権者や継続的な契約関係を有する取引先など、一定の利害関係を有する者であれば、裁判所に申請して閲覧が認められます。
閲覧可能な書類には、再生手続申立書や疎明資料、保全命令に関する書類などが含まれます。取引先が置かれた経営状況や資金計画をより正確に把握できるでしょう。
取引先担当者への連絡
取引先との日常的な関係を生かして、担当者に直接状況を確認するのも有効です。
しかし、現場の従業員は民事再生手続の法的側面まで正確に把握していないこともあります。そのため、営業担当者へのヒアリングはあくまで補足的手段として位置づけ、公式な情報と照らし合わせて判断しましょう。
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今後の取引方針を検討する
取引先が民事再生を申し立てた場合、すぐに取引を打ち切るのではなく、取引の継続可否を冷静に判断することが大切です。
取引方針を決める際の主なポイントは、次のとおりです。
・取引条件を見直す
掛取引は避け、今後の支払いを前払い・代金引換・現金払いに切り替えれば、安全性を確保しつつ取引を継続できます。
・供給リスクを確認する
取引先が供給側である場合、製品・原材料の入手が滞らないか確認しましょう。供給が不安な場合は、代替業者を探してみてください。
・契約内容を再点検する
現在の契約書の内容を再確認し、相手方が契約条件を履行できるかを見極めます。履行が難しい場合は、契約解除や条件変更の交渉を進めることで、自社の損失を防げます。
なお、債権者として再生手続に関与する際は、再生計画に弁済条件が反映されるため、手続きへの積極的な参加が求められます。再生手続の進行に応じて、専門家の助言も得ながら今後の取引方針を慎重に決定しましょう。
裁判所からの通知や再生計画案をよく確認する
民事再生手続が正式に始まると、裁判所から「再生手続開始決定通知」や「債権届」が送付されます。
債権届を怠れば、売掛金などの再生債権について弁済を受ける権利を失うおそれがあるので、必ず期日内に提出しましょう。
また、債権届出の際は、以下の点に注意が必要です。
・債権額・発生原因を正確に記載する
・届出期限を厳守する
・添付資料(請求書・契約書など)を整えておく
届出後、債権者集会で再生計画案の決議が行われます。過半数の債権者、かつ議決権総額の2分の1以上の同意で可決されると、裁判所の認可を経て再生計画に従った弁済が始まります。
なお、再生債権(申立て前に発生した売掛金など)は、再生計画に従って減額または分割されて支払われます。一方、申立て後に発生した債権(共益債権)は、再生計画とは別に全額回収が可能です。
再生手続中に開始した新規取引は、必ず請求日や契約日を明確にし、共益債権として区別できるよう管理しましょう。
担保権を実行するなどして債権を回収する
債権者であっても、担保権(抵当権・質権など)を持っている場合は、民事再生手続が進んでいても個別に回収できる場合があります。
主な回収方法は、以下の4つです。
・担保権の実行
担保物を売却して、弁済を受けられます。ただし、裁判所が担保権実行の中止命令を出した場合は行使が制限されます。
・相殺
取引先に対して債権と債務を両方有する場合は、相殺して債権を優先的に回収できます。相殺の意思表示は、内容証明郵便で通知するのが一般的です。
・保証人からの回収
取引先が民事再生をしても、連帯保証人は原則として免責されません。そのため、連帯保証人に債権を請求できます。
・共益債権としての回収
民事再生手続申立後の取引によって発生した債権(例:納品後の売掛金)は、共益債権として全額支払いを受けられます。
まとめ
民事再生は、経営が悪化した企業が破産を避け、事業を継続しながら再建を目指すための法的手続です。裁判所の関与のもとで再生計画を作成し、債権者の同意を得て債務を圧縮することで、企業の経済活動を立て直します。破産のように事業を清算するのではなく、再生を前提としている点が大きな特徴です。
手続きは、裁判所への申立てから始まり、監督委員の選任、債権届出、再生計画案の作成・決議などを経て、弁済が実行されます。一般的に半年ほどかかり、債権者は決められた期限内に手続きを進める必要があります。手続中は債権の回収が制限されるため、慎重な対応が求められます。
取引先が民事再生を申し立てた場合には、まず案内文書や信用調査会社の情報などを通じて正確な情報を収集し、自社への影響を早急に確認することが大切です。その上で、現金取引への切り替えや代替業者の検討など、事業への影響を最小限に抑える対策を取りましょう。債権届出や再生計画の確認を怠ると、支払いを受けられないおそれがあるため注意が必要です。
ただし、どれほど慎重に管理していても、取引先の経営悪化や倒産は避けられない場合があります。そうした不測の事態に備えるためには、売掛金保証サービス「URIHO(ウリホ)」のような制度を活用するのが効果的です。
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