中小企業の経営者の皆さま、
「社会保険の適用拡大」に関する法改正のニュースはチェックされていますでしょうか?
2025年6月に年金制度改正法が成立し、パートやアルバイトといった短時間労働者の社会保険加入条件が、大きく変更されることが決まりました。これまで壁となっていた「賃金要件(いわゆる106万円の壁)」の廃止や、「企業規模要件」の段階的な撤廃が進められます。「うちは従業員数が少ないから関係ない」「扶養内パートが多いから大丈夫」と言っていられる時代は、終わりを迎えようとしています。
今回は、この改正が中小企業の経営に「どのようなリスクをもたらすのか」を網羅的に解説します。
なぜ変わる?どう変わる?知っておくべき「社会保険適用拡大」の全体像
今回の法改正は、単に労務手続きが増えるというレベルの話ではなく、日本の雇用・年金構造の根幹に関わる変化です。経営者として、まずはその背景と具体的な変更点を正しく把握しておきましょう。
なぜ変わるのか?(法改正の背景)
大きな理由は「少子高齢化に伴う社会保障制度の維持」と「多様な働き方への対応」です。
現在日本の労働力不足を補っているのは、パートやアルバイトといった短時間労働者ですが、従来の制度では、
一定以上働くと扶養から外れて手取りが減る「年収の壁」が存在し、働き控えの原因になっていました。
国としては、短時間労働者であっても社会保険(厚生年金・健康保険)に加入できるようにすることで、将来受け取る年金を増やして生活を安定させると同時に、社会保障の支え手を増やし、労働時間の制約をなくして日本の生産性を向上させたいという狙いがあります。
どう変わるのか?(具体的な変更点)
これまでの適用拡大は主に「従業員数(企業規模)」に着目して段階的に進められてきましたが、今後はさらに踏み込んだルール変更が行われます。大きく変わるポイントは以下の2点です。
①「企業規模要件」の段階的な撤廃
これまでは、従業員数51人以上の企業が対象でしたが、この規模要件が段階的に引き下げられ、2035年までには「従業員1人以上」のすべての企業(個人事業主を含む)まで拡大されることが決まりました。これにより、実質的に企業規模による猶予はなくなります。
②「賃金要件(106万円の壁)」の廃止
これまで社会保険加入の基準となっていた「月額賃金8.8万円以上(106万円の壁)」という賃金要件が、3年以内に廃止される方向となりました。今後は、賃金の高さに関わらず「週の所定労働時間が20時間以上」であれば、原則としてすべての短時間労働者が社会保険の加入対象となります。
社会保険の適用拡大で中小企業が直面する「3つの経営圧迫リスク」
「週20時間以上」というシンプルな基準になることで、これまで対象外だった多くのスタッフが該当することになります。これにより、中小企業には以下のような死活問題が生じる恐れがあります。
リスク1:法定福利費(人件費)の急激なコスト増
社会保険料は、会社と従業員が折半して負担します。 これまで扶養内で働いていたパート・アルバイトスタッフが新たに社会保険の対象になると、会社側が負担する「法定福利費」が大幅に上がります。経営資源や資金繰りに余裕がない中小企業にとって、この突発的な固定費の増加は、営業利益を直接圧迫する大きな打撃となります。
リスク2:従業員の「働き控え」による深刻な人手不足
社会保険に加入すると、従業員側の手取り額が一時的に減ってしまうケースがあります。 それを避けたい従業員が「これ以上は働かないようにしよう」と、週の労働時間を20時間未満に抑える新たな就業調整(働き控え)を始めるリスクがあります。ただでさえ人手不足に悩む中小企業において、既存スタッフの労働時間が減ることは、現場の崩壊や売上機会の損失に直面することを意味します。
リスク3:社会保険手続きなどの「事務負担」の増大
対象者が増えれば、当然ながら人事・労務の事務作業も激増します。 健康保険や厚生年金の資格取得手続き、毎月の給与計算での保険料控除、各種書類の提出など、バックオフィス業務の負担が重くなります。専任の総務・人事担当者がいない、あるいは経営者自身が労務を兼任していることが多い中小企業にとって、この業務負担は見えないコストとして経営を圧迫します。

国の支援策もあるが、根本的な「資金繰り」の見直しが急務
国も制度変更の緩和措置として、事業主への保険料一部支援や生産性向上のための助成金などを検討していますが、これらはあくまで一時的な補助に過ぎません。中長期的に見れば、「固定費が確実に上がる」という前提で、会社のキャッシュフローを再構築することが、中小企業が生き残るための絶対条件となります。
固定費が増えるということは、それだけ「絶対に回収しなければならない売上」の重要性が増すということです。そんな中、もし取引先の倒産や支払い遅延によって「売掛金が回収できない」事態が発生したらどうなるでしょうか? 増大した人件費の支払いが滞り、一気に経営破綻へ向かってしまう危険性があります。
予測できないリスクに備え、キャッシュフローの再構築を
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