債権者から回収するにあたって、できるだけ穏便かつ円満に解決したいということであれば、民事調停という法的手続があります。
この記事では、民事調停のメリットとデメリット、そして手続きの概要について詳しく解説します。
民事調停とは?
民事調停は、当事者間の交渉では解決できないトラブルを、裁判所を介して話し合い、双方に満足のいく形で解決を図る法的な手続きです。
トラブルの解決には、できるだけ話し合いで穏やかに対処したいと考えるものの、当事者がそれぞれの主張を一方的に述べ合うだけでは解決に至らない場合があります。また、素人同士の話し合いでは、法律に照らし合わせた客観的な判断が難しいかもしれません。
そこで民事調停では、調停委員2名と裁判官1名からなる民事調停委員会が、第三者の立場から適切な法的判断を下してくれます。調停委員は、司法関係者など豊富な社会経験と専門知識を持つ人々の中から選ばれています。そのため、民事調停の申立に際して弁護士に代理を依頼する必要性は低いと言えるでしょう。
民事訴訟との違い
民事訴訟と民事調停では、トラブル解決に向けてそれぞれ重視する点が異なります。
民事調停は、当事者双方の合意形成を目指します。対して、民事訴訟では当事者の合意は不要で、裁判所による判決が重要となります。訴訟では、当事者がそれぞれの主張を争うことになるため、対立が激化しがちで柔軟な解決を図るのは難しくなります。
つまり、民事調停は当事者間の話し合いと合意形成に重点を置くのに対し、民事訴訟では判決を求めて対立構造が生まれやすいのが特徴です。
このように、民事調停と民事訴訟では、トラブル解決に向けてのアプローチが大きく異なります。話し合いによる穏やかな解決を目指すのか、それとも裁判所の判断に委ねるのかという点で、両者には明確な違いがあります。
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債権回収で民事調停を利用するメリット
債権回収において民事調停を利用することには以下のようなメリットがあります。
手続きが簡単 申し立て費用が安い
民事調停の手続は訴訟に比べ簡単です。専門の弁護士に頼まずとも自身で手続きを進めることができるため、訴訟に比べて申立費用を安く抑えられます。
訴訟となると、弁護士費用や裁判手続きにかかる費用を支払わなければなりません。また、弁護士との打ち合わせや証拠収集、承認依頼などの手間が発生し、訴訟期間も長期化します。民事調停は訴訟に比べ期間が短期間で済みます。
借金の返済を求める債権者にとって、民事調停は経済的な負担や手間を軽減することができるでしょう。
訴訟と違い話し合いのため比較的穏便
民事調停は、裁判所の調停委員が当事者間の話し合いを仲介することで解決を目指す手続きです。これは、裁判官が判断を下す民事訴訟とは異なります。
民事調停では、当事者同士が互いの主張を伝え合い、話し合いを通じて合意点を見出すことが重視されます。このため、訴訟のように対立が深刻化せず、双方が折り合いをつけることができる可能性が高くなり、結果、関係性を保ちつつ、円満な解決に至ることもあります。
当事者の話し合いが中心となる民事調停は、対立の激化を避け、建設的な解決を目指すところにメリットがあります。
時効の進行停止
民事調停の申立が受理されると、債権の消滅時効が中断されます。消滅時効とは、一定期間が経過すると債権が消滅してしまう制度です。民事調停が成立すれば、その時点から債権の時効期間が10年に延長されます。これにより、債権の主張権を失うリスクを回避できます。
このように、民事調停は債権回収の手段として有効な選択肢となります。手続きを適切に行えば、時効を心配することなく債権を主張し続けられるのが大きなメリットといえるでしょう。
調停調書による強制執行力
調停が成立すると、調停調書が作成されます。これは訴訟における確定判決と同等の効力を持ちます。調停調書には、当事者間の合意内容が明記されています。
調停調書によって、債権者は相手方に対して強制執行を行うことができます。強制執行とは、相手方が義務を履行しない場合に、国家権力を動員して強制的に履行させる手続きです。
民事調停の成立と調停調書の作成は、債権回収にとって非常に有効な手段となります。訴訟と同等の効力があり、強制執行も可能なため、柔軟な解決が期待できます。
債権回収で民事調停を利用するデメリット
民事調停の利用にはメリットがある一方、デメリットも存在します。
相手の不出頭、話し合いの不調、相手の居所不明によって時間の無駄になる可能性
民事調停では、相手方の協力が必要不可欠です。しかし、時には相手方が出頭しないことや、建設的な話し合いができないこともあります。さらに、相手方の所在が不明な場合もあるでしょう。
これらの要因により、調停手続が順調に進まず、時間と労力が無駄になってしまうかもしれません。相手方の協力が得られない場合は、解決までの時間が長引くリスクがあります。
調停では、当事者双方の合意形成が必要です。しかし、相手方の事情によっては、円滑な進行を阻害する可能性があります。このような事態に備え、適切な対応策を検討しておく必要があるでしょう。
裁判所側の結論への強制力がない
民事調停は、当事者間の合意に基づいて解決を図る手続です。そのため、当事者双方の互いの歩み寄りと協力がなければ、調停の成立は期待できません。つまり、必ず調停が成立して回収できるという保証や強制力はないのです。
例えば、訴訟の場合は相手が裁判に欠席した場合「欠席判決」となり、相手方が敗訴となる可能性は高くなるでしょう。しかし、民事調停では相手方が調停日に欠席しても罰則はなく、単に当事者間での合意が成立しなかったとみなされ、調停不成立で終了です。
民事調停においては、裁判所側の結論への強制力はないため、常に調停が成立しない可能性を念頭に置く必要があります。
なお、調停が終了する旨の通知を受けてから2週間以内に同じ紛争に関して訴訟を起こす場合、調停申立時に支払った手数料は訴訟手続きの手数料から差し引くことができます。
参考
裁判手続 簡易裁判所の民事事件Q&A
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民事調停の手続き
民事調停は、債権者・債務者のどちらでも申立ができます。弁護士などの専門家に依頼せず、本人が申し立てることも可能です。
民事調停を利用するためには、以下の手続きが必要です。
申立の準備
調停の申立は、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に行います。例えば、申立人が東京都に住所地があり、相手方の住所地が神奈川県横浜市中区にある場合には、横浜簡易裁判所が管轄になります。
簡易裁判所は各都道府県に一か所とは限りません。相手方の住所地を管轄する簡易裁判所がどこかは、裁判所のウェブサイトで確認しましょう。
調停申立書の作成
次に、調停申立書を作成します。裁判所のウェブサイトには、簡易裁判所に提出する書式の記載例が掲載されており、申立書等のひな形をダウンロードすることもできます。
調停申立書に記載しなければならない事項は以下の通りです。
- 裁判所の表示
- 作成年月日
- 申立人の住所(法人の場合 本店および営業所の所在地)
- 申立人の氏名(法人の場合 代表者の氏名も追記)
- 申立人の電話番号
- 申立人の押印
- 相手方の住所(法人の場合 本店および営業所の所在地)
- 相手方の氏名(法人の場合 代表者の氏名も追記)
- 代理人の住所・氏名(代理人が申立をする場合)
- 申立の趣旨
- 紛争の要点
申立書には、債権者の主張や要求、相手方の情報などが記載されます。正確かつ明瞭に記載することで、調停委員が適切な判断を行うための情報を提供できます。
申立書は製本の他に、相手方の人数分だけ副本を作成します。提出は持参もしくは郵送のどちらでもかまいません。
貸金調停の記載例(PDF:898KB)PDFファイル
売買代金調停の記載例(PDF:1.27MB)PDFファイル
添付資料の用意
次に、民事調停の申立書に添付する資料を用意します。申立人または相手方が法人である場合は、会社の登記事項証明書(交付から3ヵ月以内のもの)を添付し、代理人が申請をする場合は、委任状および代理人許可申請書を添付します。
債権回収に関する調停では、金銭借用証書、売買契約書や領収書、売掛金台帳や手形写しなど、トラブルの証拠書類となるものを添付します。
申立手数料の納付
最後に、申立書の手数料を納付します。手数料は収入印紙で納めます。手数料の額は、紛争の対象となっている金額によって異なります。
紛争の対象となる額が高ければ高いほど、手数料も高くなります。例えば、売買代金30万円の返済で調停を求める場合、申立手数料は1,500円に、貸金債権1,000万円の返済で調停を求める場合、申立手数料は25,000円になります。
また、申立時には郵便切手も納めます。郵便切手は、関係者に書類を送る場合(例:調停期日に関係者を呼び出す)などに使用されます。郵便切手の金額は、相手方の人数や書類を送る回数などによって異なります。申立書を提出する裁判所に確認するとよいでしょう。
手数料の納付が完了し、申立書の記載内容に不備がなければ調停の申立は正式に受理されます。
まとめ
民事調停は、裁判所に調停の申し立てをし、調停委員会が双方の意見を聞き、仲介やあっせんなどを通じてトラブルの解決を目指す手続きです。対立が深刻化しやすい訴訟に比べ、円満に解決できる可能性が高まります。
民事調停は、以下のようなケースで検討します。
- 相手方との関係を損なわずに紛争を解決したい場合
- 経済的な負担を軽減したい場合
- 早期解決を目指したい場合
民事調停の手続きは、相手方の管轄の簡易裁判所に申立書と必要書類を提出し、手数料を収入印紙で支払います。また、別途郵便切手も必要になります。
もし、民事調停で相手方の合意が得られず、調停不成立となってしまった場合は、民事訴訟を検討しましょう。証拠が十分あり、弁護士費用が合理的な範囲である場合、民事訴訟は有効な手段となるでしょう。
債権回収にあたっては、自社にとって適切な方法を選択しましょう。
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