取引相手へ請求書を送付しても、支払期限を過ぎて入金がない場合、相手企業への訴訟や差し押さえに踏み切らなければならないかと焦る方がいるかもしれません。しかし支払がない場合であっても、裁判手続きにいたるまでに行うべきステップがあります。
この記事では、支払期限を過ぎても入金がなかった場合にやるべきことを解説します。支払いがなかった場合の対応ステップを頭に入れておき、状況に応じて正しい行動を選択できるようにしておきましょう。
請求書の支払期限について
取引先に商品やサービスの代金を請求する際には、請求書に請求金額とともに支払期限を明記することが一般的です。法律上は、商品の引渡しやサービスの提供が完了した時点で支払い義務が発生しますが、実際には請求書が発行された時点で正式な請求が行われたと見なされます。そのため、請求書に記載された支払期限は、取引相手にとって支払いを行う目安となるだけでなく、支払いが遅れた場合の督促や法的措置を行う際にも大きな意味を持ちます。
支払期限の設定方法には、具体的な日付を指定する方法や、「当月末締め、翌月末払い」といった支払サイトを採用する方法があります。これにより、請求側も支払い側も資金繰りの計画が立てやすくなり、ビジネスの円滑な進行が期待されます。
請求書に明確な支払期限を記載することは、双方にとって取引の透明性を高めるためにも欠かせない要素です。
支払いサイトとは?
支払いサイトとは、締め日から支払日までの日数を表すものです。例えば月末締め翌月末払いであれば、支払いサイトは30日となります。なお、請求書に支払いサイトを記載する場合は30日と記載するのではなく、月末締め翌月末払い、という表記が一般的です。
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請求書の支払期日の設定方法
請求書に記載する支払期日は原則として、契約時に双方で取り決めた支払いサイトにもとづいて設定します。契約時に取り決めがなければ、事前に双方で調整のうえ合意した内容を記載します。企業間取引であれば、「当月末締めの翌月末払い」が最も多く、次に「当月末締めの翌々月末払い」が多く採用されていますが、双方の合意があればこれ以外でも問題ありません。ただし下請け契約の場合には下請法の規制により、支払いに係る手形等(手形または一括決済方式や電子記録債権のこと)のサイトは60日以下とするように決まっているため、これを守らなければなりません。
なお、請求書の発行方式には都度方式と締日方式の2パターンがあります。都度方式は商品提供を行うごとに請求書を発行する方式で、新規取引や単発取引の際によく用いられます。一方、締日方式は継続的に取引がある、または複数の取引が同時並行する取引先への請求によく使われる方法です。毎月の締日を決め、締日から次の締日までの請求分をまとめて1枚の請求書に含めて発行します。締日方式の場合、事前に契約で締日と支払日を決めておくのが一般的です。
参考
中小企業庁:下請代金の支払手段について (meti.go.jp)
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支払いが遅れている際に考えられること
資金繰りの問題
取引先が支払い遅延に至る主な理由のひとつは、資金繰りの問題です。特に景気の変動や取引先の業績悪化、予期せぬ支出などにより、手元資金が不足することがあります。こういった場合、取引先は他の支払いを優先することで、請求書の支払いが後回しにされることもあります。
資金繰りの一時的な悪化の場合は、今後の改善を期待できますが、長期的な資金不足が続く場合は、破綻のリスクもあるため、注意が必要です。相手とコミュニケーションを取り、どの程度の支払い遅延が見込まれるのかを確認することが大切でしょう。
請求書の見落とし
請求書の処理が適切に行われなく、社内の処理が遅れた結果、支払いが滞っている可能性もあります。取引先が忙しい業務の中で、請求書がシステム内で処理されない、もしくは担当者が確認を見落としている場合があります。
特に、担当者の異動や休暇、繁忙期などが重なると、請求書が優先度の低いタスクとして扱われることが多くなります。この場合、早期にリマインドや催促を行うことで、事態が迅速に解決することが期待できます。
支払いサイトの誤解
取引先との間で支払い条件(支払いサイト)についての認識違いが支払い遅延の原因になることがあります。たとえば、「請求書発行日から30日後」と設定している支払い期限を、相手が「翌月末払い」や「請求書受領日からのカウント」と誤解している場合、実際の支払期日が異なって認識されることがあります。
このような誤解を防ぐためには、契約時や取引開始時に支払サイトについて明確に確認し、取引先と共通の認識を持つことが重要です。誤解が原因の場合、丁寧なコミュニケーションで認識をすり合わせ、今後の取引条件を再確認することで、トラブルの回避が可能です。
支払期限を過ぎても支払いがない場合の対応
支払期限を過ぎても入金がない場合、いきなり訴訟や差し押さえを考えるのは時期尚早です。支払いがない場合にやるべきことには順番があります。以下のとおりに進めていくようにしましょう。
まずは自社のミスか確認する
先方への請求書送付が漏れていたり、請求内容に不備があったりしたために支払が行われない、というパターンは意外と多いものです。取引先の対応に問題がないかを確認する前に、自社の事務処理に問題がなかったかどうかをまず確認しましょう。
自社のミスで先方への請求が正しく行われていなかった場合、取引先へ連絡し支払タイミングを改めて調整することになります。次回の請求時に含めるか、支払日を改めて設定してもらうかなど方法はいくつか考えられますが、支払日を改めて設定する場合は先方で対応できる支払スケジュールを考慮して決めることが必要です。対応方法が決まれば、それに合わせて請求書を発行します。
ミスがないか確認後、取引先に確認
自社の請求処理が順調に進んでいることを確認したら、次のステップとして取引先に状況の確認連絡をすることが重要です。取引先でも支払い意思がある一方で、事務処理の不備により期日通りの支払いが行われないケースも考えられます。
確認した結果、先方が事務的なミスをしていた場合、自社でミスがあった時と同じように、今後の対応を調整し、決定します。もし、事務処理の不備ではなく支払いが困難だったという状況であれば、支払期日の延期など、調整を進める話し合いを行うよう心がけましょう。
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それでも支払いがない場合は内容証明を送付する
内容証明とは特定の文書の送付に関する情報を公的に証明する郵便サービスです。具体的には、「いつ、誰が誰宛に、どんな内容の文書を送ったか」を明確に記録し、送り手と受け手双方の権利を保護します。
内容証明で送る催告書には特別なフォーマットは必要なく、1行20字以内・1枚26行以内であれば枚数制限なく記載することができます。重要な点として、債務の特定、請求条件、交渉経緯、請求金額、支払期限、回答期限などを明記する必要があります。支払期日までに支払いがない場合の法的手段も、内容証明で正式に通知します。
請求書の時効は通常2年ですが、内容証明を利用することで6ヵ月延長することが可能です。内容証明は紙媒体だけでなく、電子内容証明としてオンラインでの送付も可能です。また、弁護士の名前での送付も問題ありません。
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支払督促の申し立てをする
内容証明に記載した支払期限になっても入金がなく、先方との話し合いでの調整が難しい場合には、裁判所へ支払督促の申し立てを行います。支払督促とは、裁判所を介して債務者へ金銭の支払いを命じる制度です。支払督促は訴訟に比べて費用が安く、書類審査のみで裁判所へ行く必要がないというメリットがありますが、相手方が内容に同意せず、異議申し立てをすると訴訟へと発展します。
支払い督促の必要書類
支払督促を申し立てる際には、以下の書類が必要となります。
- 申立書
- 請求書の写し
- 取引契約書の写し(ある場合)
- 支払期限を過ぎても支払いがないことを証明する文書(メールのやり取りなど)
支払い督促の申し立ての流れ
支払督促の申し立てにはいくつかのステップがあります。
支払督促の申し立て
まず、申立人である債権者は必要な書類を準備します。準備が整ったら、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に書類を提出します。裁判所が書類を受理すると、支払督促を発行し、それを相手方に送達します。相手方は支払督促を受領後、2週間以内に支払いを行うか異議申し立てをする必要があります。もし相手方が異議申し立てを行わなければ、支払督促が確定します。
仮執行宣言の申し立て
支払督促が確定した場合、債権者はその翌日から30日以内に仮執行宣言の申し立てを行います。この手続きは、相手方の財産を差し押さえるための準備です。裁判所が仮執行宣言を発行し、相手方に送達します。相手方が仮執行宣言付支払督促を受領してから2週間以内に異議申し立てを行わなければ、仮執行宣言が確定します。
強制執行の申し立て
仮執行宣言が確定すると、債権者は強制執行の申し立てを行うことができ、相手方の財産を差し押さえる手続きを進めることが可能になります。強制執行の申し立てにより、債権者は支払督促の結果を確実に実現し、未払い金を回収することができます。
一連の手続きを通じて、債権者は迅速かつ効果的に未払い金の回収を行うことができます。支払督促は、特に小規模の債権回収において有効な方法です。
参考
「お金を払ってもらえない」とお困りの方へ 簡易裁判所の「支払督促」手続をご存じですか? | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
売掛保証を用いた支払い遅延への対応
売掛金の支払い遅延に対する効果的な対策として、「売掛保証」の利用があげられます。売掛保証は、取引先が支払期限を過ぎた場合に、保証会社が未払いの売掛金を立て替えて支払ってくれる制度です。これにより、支払いが遅れた場合でも企業はキャッシュフローの悪化を防ぎ、安定した事業運営を継続することができます。
売掛保証の仕組み
売掛保証を利用する場合、まず取引先の信用調査が行われ、保証契約が結ばれます。取引先が支払いを期限内に行わない場合でも、保証会社が一定の条件のもとで売掛金を立て替えることで、未払いリスクを軽減します。この仕組みを活用することで、企業は催促や支払督促といった法的手段を講じる前に、保証を利用して未払い金を回収できるというメリットがあります。
売掛保証を利用するメリット
- キャッシュフローの安定:支払い遅延が発生しても保証会社から立て替え払いが行われるため、資金繰りが安定します。
- 債権回収の効率化:保証契約を通じて未払いリスクを保証会社に移転できるため、自社での債権回収業務が大幅に軽減されます。
- 安心して取引が可能:新規取引先や取引実績の少ない企業との取引でも、保証を利用することで、万が一の支払い遅延や未払いリスクを最小限に抑えた取引が可能になります。
支払い遅延が発生した場合の対応
支払い遅延が発生した際、売掛保証を利用している場合は、まず保証会社に連絡し、立て替え払いの手続きを開始します。その後、保証会社が取引先に対して支払いの請求を行い、必要に応じて法的措置を講じる場合もあります。これにより、自社での手間を最小限に抑え、迅速な資金回収が可能です。
まとめ
請求書に記載している支払期限が過ぎても相手方から支払が行われない場合、まずは自社の事務処理にミスがないかの確認が必要です。自社の手続きに問題がなければ相手方へ確認の連絡をします。相手方の処理にも問題がなく、それでいて支払いが行われない場合には内容証明書の送付、さらには支払督促とステップを進めます。
支払期限に入金がなかったとしても、期日延期や条件変更など調整することで支払を受けることができ、支払督促や訴訟を回避できるのであればそれに越したことはありません。ただし、相手方が悪意を持って支払いを止めることや、資金繰りが悪く今後の支払いの見込みが立たない場合などは、内容証明を送付のうえ支払督促を行い、強制執行手続きによって入金分を少しでも確保することも必要です。
カレンダーで、与信管理をしなくても安心して取引を行うことができます。また、督促業務に時間や労力を割く必要がなくなり、営業活動に集中することが可能です。
また、URIHOはすべての手続きがWeb上で完結し、スピーディに利用開始することが可能です。売掛金の回収にご不安がある場合は一度導入をご検討ください。