減損とは、企業の資産価値が将来の経済的利益見込みを下回った状況を指し、その価値減少を財務諸表に反映させる会計処理のことを言います。この記事では、減損処理の目的、対象資産の種類、メリットとデメリット、そして減損処理の具体的な手順について詳しく解説します。財務諸表の信頼性向上や正確な企業価値の把握に役立つ減損処理は、適切な実施と管理が求められる重要な会計手法です。
減損とは?
減損とは、企業の資産の価値が将来の経済的な利益見込みよりも低下している状態のことです。
資産の価値が元々の取得価格や帳簿価額よりも減少している場合、その減少分を財務諸表上に反映させ、正確な資産価値を示すことが求められます。この減少分を財務諸表上から取り除く会計処理を減損会計といいます。
減損会計は、以下の3つの固定資産を対象に適用します。
有形固定資産 | 建物、土地、生産設備、車両など物理的な資産 |
無形固定資産 | 特許権、商標権、著作権、のれん、ライセンスなど物理的な形を持たない資産 |
投資その他の資産 | 有形固定資産、無形固定資産のどちらにも該当しない資産。株式や出資金など |
ただし、上記3つに該当する場合でも、他の会計基準で定めのある資産は減損会計の対象からは除外されます。具体的には以下の資産です。
- 「金融商品会計に係る会計基準」における金融資産
- 「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産
- 「研究開発費等に係る会計基準」における市場販売目的のソフトウェア
- 「退職給付に係る会計基準」における前払年金費用
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減損処理を行ううえでのメリット・デメリット
減損処理を行うことには、いくつかのメリットとデメリットが存在します。
減損処理のメリット
以下に、減損処理の主なメリットを解説します。
財務諸表の信頼性向上
減損処理により資産の実態に即した適切な帳簿価額が反映されれば、財務諸表の信頼性が向上し、投資家や債権者などの利害関係者に対して正確な情報を提供できます。
経営判断の支援
減損処理を行うことで、財務諸表には資産の実態に即した帳簿価額が反映されます。正確な企業価値の把握ができれば、経営者は適切な事業対策を講じることができるでしょう。
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財務パフォーマンスの正確な評価
減損処理によって、企業の財務パフォーマンスが正確に評価されます。減損損失が費用として計上された場合、企業の利益が実際の状況にもとづいて計算されるため、企業の業績や収益性を正確に把握できます。
減損処理のデメリット
メリットがある一方で、減損処理には以下のデメリットも存在します。
業績悪化
資産の帳簿価額が実際の価値に対して過大評価されていた場合、減損処理によって決算書の数値は悪化します。
市場評価への影響
減損処理は、企業の資産価値が実際の市場価値よりも低く評価されることを意味します。このような評価の下では、企業の信用リスクが増加し、株価や債券価格に影響を与える可能性があります。また、減損処理が公表されると、株主や投資家の間で企業への信頼が揺らぐ場合もあります。
資金調達の制約
減損処理によって企業の資産価値が減少すると、資金調達において減損に至った経緯や理由を金融機関に説明する必要があります。金融機関は、減損処理によって企業の財務状況や返済能力が悪化したと判断する場合、融資の条件を厳しくするか、融資を断る可能性もあるでしょう。
減損処理は、企業の資産評価の正確性や情報の透明性を向上させる重要な手段ですが、適切な実施と管理が必要です。
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減損と臨時償却との違い
減損と臨時償却は、どちらも資産の価値を低下させる処理ですが、それぞれの考え方や適用範囲には違いがあります。
減損は、将来の経済的な利益の見込みに比べて資産の価値が低下していると予測される場合に行われます。つまり、将来の収益やキャッシュ・フローが予想よりも減少し、資産の価値がその結果として減少していることを意味します。
一方、臨時償却は、通常の減価償却計算に適用されている耐用年数や残存価額が、予期しない原因等により著しく不合理になった場合に行われます。これは、すでに計上されている過去の金額を修正するものであり、将来の見込みにもとづく減損処理とは異なる時間軸で考慮されます。
このように減損は将来の予測にもとづいて資産の価値の低下を評価し、臨時償却は過去の計上金額の修正です。
減損処理の仕訳方法
減損処理の手順は、固定資産のグルーピング、減損の兆候、認識、測定の4工程で進みます。
固定資産のグループ分け
固定資産のグループ分けとは、保有する一つ一つの固定資産を、お金を生み出す最小単位でグループ化することです。たとえばA工場でB製品を作っており、B製品が販売されることでキャッシュを生み出す場合、A工場にある機械や土地、建物、器具等がグループ対象とされます。
機械、土地建物、器具をそれぞれ一つ一つ減損するのではなく、お金を生み出すグループを見つけ、グループ単位で減損処理を検討します。
減損の兆候
次に、減損の兆候があるか確認します。
減損の兆候例
- 資産の事業が赤字
- 資産の回収可能価額が大幅な減少
- 資産を取り巻く経営環境が目立って悪化
- 資産を取り巻く市場価格が下落
減損の認識
減損の認識とは、減損するか否かを判断することです。減損するか否かの判断は、「割引前将来キャッシュ・フローの総額」と「帳簿価額」を比較することによって行います。割引前将来キャッシュ・フローの総額とは、その資産から将来得られるお金のことです。
割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損を行います。
減損の測定
減損の測定するにあたっては、まず「回収可能価額」を求めます。回収可能価額は、今の売却価額と、使い続けた場合に得られるキャッシュの総額を比較した高い方の金額です。
金額算出後、仕訳を切ります。帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減額した金額を「減損損失」として損益計算書に計上します。
仕訳例
(借方)減損損失 | 2000万円 | (貸方)建物 機械装置 | 1000万円 1000万円 |
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まとめ
この記事では、減損の概念や減損処理のメリット・デメリット、臨時償却との違い、そして減損処理の仕訳方法について解説しました。
減損は、企業の資産の価値が将来の見込み利益より低下している状態を指します。減損処理のメリットは、財務諸表の信頼性向上や経営判断の支援、正確な財務パフォーマンス評価があります。一方、業績の悪化や市場評価への影響、資金調達の制約リスクなどデメリットも存在します。
減損と臨時償却は異なり、減損は将来の予測にもとづく資産価値の低下評価であり、臨時償却は過去の計上金額の修正です。
減損処理の仕訳は、固定資産のグループ分け、減損の兆候の認識、減損の測定の4つのステップで行われます。
減損処理は手順が複雑です。適用すると大きな損失が発生する可能性は否めません。専門家の意見を聞くにあたり、正しい知識を身に付けることが重要です。
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