事業を運営する中で、手元の資金が足りなくなる場面は頻繁に発生します。売掛金の支払いサイトが30日~60日に及ぶ業種も多く、入金を待つ間にも経費の支払いは次々と迫ってきます。
このようなケースで役立つのが、売掛金を現金化して資金を調達する手法です。
この記事では、売掛金で資金調達する2つの方法「ファクタリング」と「売掛債権担保融資(ABL)」を取り上げ、仕組みの違い、それぞれのメリットとデメリット、利用時のコツを詳しく解説します。
売掛金で資金調達する2つの方法
売掛金で資金調達する主な方法は、「ファクタリング」と「売掛債権担保融資(ABL)」の2つです。どちらも売掛金を活用する点では同じですが、取引の性質は大きく異なります。
ここでは、それぞれの仕組みを詳しく解説し、両者を比較します。
ファクタリング
ファクタリングとは、保有している売掛金をファクタリング会社に売却して、支払期日より前に現金を受け取る方法です。
仕組みとしては「債権の売買」にあたるため、銀行からの借入とは性質が異なります。借入ではないので、貸借対照表に負債として載りません。
ファクタリングには、「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」の2種類があります。
| 形式 | 仕組み | 特徴 |
| 2社間ファクタリング | 自社とファクタリング会社だけで契約する | 売掛先に知られずに利用できるが、手数料が高め |
| 3社間ファクタリング | 自社・ファクタリング会社・売掛先の3者で契約する | 手数料は低めだが、売掛先の同意が必要 |
2社間の場合、売掛先に通知せずに資金調達できる点が大きなメリットです。ただし、ファクタリング会社が回収リスクを相対的に多く負うため、手数料は「8~18%」と高めに設定されています。また、契約時には債権譲渡登記が求められるのが一般的です。
3社間の場合は、売掛先も契約に加わるためリスクが分散され、手数料は「2~9%」に抑えられます。一方で、取引先に通知されるため、取引相手から「資金繰りが苦しいのではないか」と思われるおそれがある点は注意が必要です。
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売掛債権担保融資(ABL)
売掛債権担保融資(ABL:Asset Based Lending)は、売掛金を担保にして金融機関から融資を受ける方法です。
ファクタリングが「売掛金の売却」であるのに対し、ABLは「売掛金を担保にした借入」にあたります。つまり、ABLで得た資金は借入金として貸借対照表に計上されます。
ABLの特徴の一つは、担保にできる資産の幅が広い点です。売掛金だけでなく、在庫や機械設備も担保として活用できます。不動産を持たない中小企業でも手元にある動産を活用して融資を受けられるため、資金調達手段として活用が進んでいます。
ただし融資である以上、金融機関の審査を通過する必要があり、自社の経営状態や財務内容も評価の対象です。また、契約時には債権譲渡登記が求められるケースもあり、登記費用や手続きの手間が発生する場合もあります。
ABLを利用する際は、まず取引先金融機関にABLの相談を持ちかけるところから始めます。金融機関が売掛金や在庫の評価(担保評価)を実施し、融資可能額を決定する流れです。
審査に通れば、融資契約と担保設定の手続きに進み、入金となります。
融資実行後も、担保の状況を定期的に金融機関へ報告する義務があるのが一般的です。
「ファクタリング」と「売掛債権担保融資」の違い
両者の違いを、表で整理します。
| 比較項目 | ファクタリング | 売掛債権担保融資(ABL) |
| 取引の性質 | 債権の売買(譲渡) | 融資(借入) |
| 負債計上 | されない | される |
| 手数料・金利の相場 | 売掛金額の2~18%程度 | 年利1~10%程度 |
| 資金化までの日数 | 最短即日~数日 | 数週間~1カ月程度 |
| 審査の対象 | 売掛先の信用力が中心 | 自社の経営状態も含む |
| 売掛先が倒産した場合 | 原則ファクタリング会社が負担(ノンリコース) | 自社で返済する義務が残る |
| 担保の範囲 | 売掛金のみ | 売掛金・在庫・設備など |
ファクタリングはスピード重視の短期的な資金調達に向いており、ABLはコストを抑えた中長期の資金確保に向いています。どちらが優れているかという話ではなく、状況に応じた使い分けが大切です。
なお、両方を併用する方法もあります。例えば、急ぎの支払いにはファクタリングで対応し、翌月以降の運転資金はABLで賄うという組み合わせです。
短期と中長期の資金需要を切り分けて管理すれば、コストを抑えながら資金ショートのリスクも減らせるでしょう。
ファクタリングのメリット・デメリット

ここでは、ファクタリングのメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
メリット①:現金を準備できるまでの日数が短い
ファクタリングの最大のメリットは、資金化のスピードが速い点です。
2社間ファクタリングであれば、申し込みから最短即日で入金される場合もあります。必要書類も少なく、オンラインで手続きが完結するサービスも増えています。
銀行融資では審査から入金まで数週間以上かかるケースが大半です。ファクタリングであれば、待ち時間の間に発生する仕入れ代金や外注費の支払いに対して、先に手元資金を確保して備えられます。
メリット②:会社の負債を増やさず資金調達できる
ファクタリングは融資ではなく、売掛金の売却です。そのため、貸借対照表に借入金として計上されません。
金融機関や投資家は企業を評価する際、自己資本比率などの財務バランスを重視します。ファクタリングは借入ではないため財務諸表上の負債が増えず、自己資本比率を維持できるのが大きな強みです。
貸借対照表の負債を膨らませずに済むため、今後銀行融資を受けたいと考えている企業にとっては、ファクタリングで資金を確保しつつ融資枠を温存するという使い方も可能です。
メリット③:担保や保証人を用意する手間を省ける
ファクタリングでは、不動産の担保や連帯保証人は原則として不要です。売掛金そのものが取引の対象になるため、担保となる資産を持たない企業でも利用できます。
また、審査では自社の信用力よりも売掛先の支払い能力が重視されます。そのため、赤字決算や税金の滞納がある企業でも、売掛先の信用が高ければ利用できる可能性があります。
デメリット①:手数料が高く設定されている場合が多い
ファクタリングの手数料は、2社間ファクタリングで「8~18%」、3社間ファクタリングで「2~9%」が相場です。
2社間ファクタリングであれば、100万円の売掛金を売却した場合、手元に残るのは80~90万円程度になる計算です。銀行融資の年利と比べると、コスト負担はかなり大きくなります。
一度の利用であれば影響は限定的ですが、頻繁に利用すると手数料が積み重なり、利益を圧迫する原因になります。緊急時の一時的な手段として割り切って使うのが賢明です。
なお、同じ売掛金でも、売掛先の規模や信用度が高いほど手数料は低くなる傾向があります。複数のファクタリング会社から見積もりを取り、条件を比較してから契約先を決めましょう。
デメリット②:売掛先の信用力によっては利用できない
ファクタリングの審査では、自社よりも売掛先の支払い能力が重視されます。そのため、自社の経営が順調であっても、売掛先の経営状態が不安定だったり過去に支払い遅延があったりすれば、審査に通らないおそれがあります。
複数の取引先の売掛金を持っている場合は、信用力の高い取引先の債権を優先的に選びましょう。
デメリット③:売掛金の額面を超える資金は調達できない
ファクタリングで受け取れる金額は、売却する売掛金の額面が上限です。また、手数料が差し引かれるため、実際の入金額は額面を下回ります。
例えば、300万円の資金が必要な場面でも、手持ちの売掛金が200万円であれば、それ以上の金額は調達できません。さらにそこから手数料が引かれるため、実際に手元に届くのは180万円(手数料10%の場合)となり、不足分はさらに大きくなってしまいます。
銀行融資やABLであれば、審査次第で売掛金の額面以上の資金を借り入れられる場合もあります。必要な金額が売掛金の範囲内に収まるかどうかを事前に確認し、不足するようであれば融資との併用も検討しましょう。

売掛債権担保融資(ABL)のメリット・デメリット
ここでは、売掛債権担保融資(ABL)のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
メリット①:ファクタリングよりも手数料を安く抑えられる
ABLは融資の一種であるため、適用される金利は年利1~10%程度が一般的です。ファクタリングの手数料(売掛金額の2~18%)と比べると、調達コストを抑えられます。
特にまとまった金額を調達する場合、金利差による負担の違いは顕著です。500万円を調達するケースで比較すると、ファクタリングでは1回(1~2カ月分)の売却で約10~90万円の手数料がかかります。一方、ABLであれば年間の利息が約5万~50万円に収まります。
コストを重視するなら、ABLが有利でしょう。
また、ABLは銀行や信用金庫が融資元となるため、手数料の透明性が高い点も安心材料になります。ファクタリング会社のように業者ごとに料金体系が大きく異なるといった心配が少なく、見積もり段階で総コストを把握できるのもメリットといえます。
メリット②:繰り返し資金調達に使える
ABLは、一度契約を結べば担保の範囲内で繰り返し融資を受けられる仕組みです。売掛金が継続的に発生する事業であれば、毎回新たに審査を受ける手間を省いて、安定した資金調達の手段として活用できます。
季節ごとに運転資金の波がある業種や、毎月一定の仕入れ資金が必要な企業にとっては、繰り返し利用できるABLの使い勝手のよさは大きな魅力です。
メリット③:売掛金以外も担保にできる
ABLでは、売掛金に加えて在庫や機械設備も担保として差し入れられます。売掛金だけでは融資額が不足する場合でも、ほかの資産と組み合わせて調達額を増やせるのが特徴です。
例えば、製造業であれば原材料の在庫や製造設備を、小売業であれば商品在庫を担保にできます。
不動産を持たない企業でも、動産を担保に融資を受けられます。
デメリット①:入金までに時間がかかる
ABLは金融機関の融資審査を通過する必要があるため、申し込みから入金まで数週間~1カ月程度かかるのが一般的です。担保となる資産の評価や、債権譲渡登記の手続きにも時間を要します。
そのため、「今すぐ現金が必要」という場面には向いていません。資金が必要になる時期を見越して、余裕を持ったスケジュールでの申し込みが求められます。
初回の契約では特に時間がかかるため、資金需要が見込まれる2~3カ月前から金融機関に相談しておくのが理想です。
デメリット②:会社の負債となる
ABLは借入であるため、貸借対照表に負債として計上されます。借入金が増えると自己資本比率が低下し、金融機関や取引先からの信用評価に影響を及ぼすおそれがあるでしょう。
すでに借入が多い企業の場合、ABLを追加で利用すると財務バランスがさらに悪化するリスクも生まれます。
現在の借入状況を把握した上で、ABLの利用が適切かどうかを判断してください。顧問税理士や会計士に相談し、負債比率の変化をあらかじめ試算しておくと安心です。
デメリット③:売掛金が支払われなかったときに自社で返済しなければならない
ABLでは、担保にした売掛金が回収できなくなった場合でも、融資の返済義務は残ります。売掛先が倒産すれば、担保の価値がなくなると同時に返済の負担だけが残る事態に陥るおそれがあります。
ノンリコース型のファクタリングでは、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社が負担しますが、ABLにはそうした仕組みがありません。
担保にする売掛先の経営状態を事前によく調べ、回収不能リスクが低い債権を優先して選びましょう。
売掛金で資金調達を成功させるためのコツ
ここでは、売掛金を資金調達に活用するときのポイントを解説します。
売掛金の信用力をよく確かめる
ファクタリングでもABLでも、売掛先の信用力は審査の結果に直結します。取引先の財務状況、支払い履歴、業界の景況感を事前に確認しておきましょう。
信用力の高い売掛先の債権であれば、ファクタリングの手数料が下がったり、ABLの融資条件が有利になったりします。反対に、支払い遅延の実績がある取引先の売掛金は、審査で不利に扱われがちです。そのため、信用調査会社の情報を活用するなどして、客観的に判断することが重要です。
また、1社の売掛先に依存するのではなく、複数の取引先の売掛金を分散して活用するほうがリスクを抑えられます。特定の取引先の経営が悪化した場合に備え、日頃から売掛先の構成バランスを見直しておくのも有効な対策です。
資金調達後の資金繰り計画をしっかりと練る
売掛金を使った資金調達は、将来入ってくるはずの現金を前倒しで受け取る仕組みです。そのため、手数料や利息の分だけ手取り額は減ってしまいます。また、売却した売掛金については、本来の入金日に自社へ入金されません。
調達した資金をどの支払いに充てるのか、翌月以降の収支はどうなるのか、最低3カ月先までの資金繰り表を作成して確認しましょう。計画なしに利用を繰り返すと、手数料の負担が膨らんで資金繰りがかえって悪化する悪循環に陥ります。
例えば、月ごとの売上入金予定、仕入れや固定費の支払い予定、ファクタリング手数料やABLの利息返済額を一覧にまとめてください。
手元の現金残高が常にプラスで推移するかどうかを確認できれば、安心して利用に踏み切れます。
信頼できる業者を選ぶ
ファクタリング業界には、法外な手数料を請求する悪質な業者も存在します。「審査不要」「即日現金化」といった宣伝文句だけで判断せず、契約書の内容をよく読んでください。
手数料の内訳や支払い条件が明確に記載されている業者を選びましょう。
実質的に貸付にあたる取引をファクタリングと偽る「偽装ファクタリング」も報告されています。金融庁のウェブサイトでも注意喚起が出ているため、不審な点がある場合は、契約前に弁護士や行政機関へ相談することが望ましいでしょう。
ABLの場合は、銀行や信用金庫が主な窓口です。すでに取引のある金融機関にまず相談してみるのがよいでしょう。
日本政策金融公庫や信用保証協会でもABLに関する相談を受け付けているため、民間金融機関の審査が不安な場合は公的機関に問い合わせてみてください。
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融資を受けるなら「でんさい」の準備を進める
「でんさい(電子記録債権)」とは、売掛金を電子的に記録・管理する仕組みです。全国銀行協会が設立した「でんさいネット」を通じて利用でき、売掛金の譲渡や割引がオンラインで完結します。
でんさいを導入すると、売掛金の存在や金額が電子記録で明確に証明されるため、ABLの審査がスムーズに進む効果が期待できます。手形のように紛失や盗難のリスクもなく、必要に応じて分割して譲渡できるため、資金調達の幅が広がるでしょう。
また、でんさいは支払期日に自動で資金が決済されるため、集金の手間が省けます。従来の手形のように取り立て手続きを踏む必要がなく、経理業務の効率化にもつながる仕組みです。政府の方針を受け、金融界全体で2026年度末を目標に紙の手形の廃止(全面的な電子化)が進められているため、今のうちにでんさいへの移行準備を整えておくと、将来の取引にもスムーズに対応できるでしょう。
ただし、でんさいは支払い側と受取側の双方が加入している必要があります。取引先がまだ未加入の場合は、導入の働きかけから始める必要があるでしょう。将来の資金調達を見据えて、早めに準備を進めておくと安心です。
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まとめ
現金の準備スピードを最優先するなら、ファクタリングが適しています。一方で、コストを安く抑えて高額な資金を用意したい場合は、売掛債権担保融資が向いているでしょう。
どちらを選ぶか迷ったときは「いつまでに」「いくら必要か」「コストはどこまで許容できるか」の3つの基準で比較し、自社の状況に合わせてより適切な手法を選びましょう。
また、資金繰りを根本から安定させるためには、売掛金を確実に回収する体制づくりも大切です。取引先の信用調査を定期的に実施し、支払い条件の見直しや回収ルールの整備を進めましょう。
未回収のリスクに備える具体策として、売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」が役立ちます。売掛金が回収できなかった場合に保証金が支払われる仕組みのため、ファクタリングやABLと組み合わせれば、資金調達と未回収対策の両面から会社の資金を守れます。
手元資金の確保と未回収リスクの対策を組み合わせて、安定した経営基盤を整えてください。