企業が資金を調達する方法としては金融機関からの融資が一般的ですが、掛取引が多い場合は売掛金を担保にした債権譲渡という方法もあります。債権譲渡は債権を回収する手段としても利用できますが、かつては民法の制限もあったため、あまり一般的ではありませんでした。
この記事では債権譲渡とはなにかという基本事項から、債権譲渡は何のために、どのような流れで行うのか、さらに債権譲渡の注意点など実務的なポイントを中心に解説いたします。
債権とは?
債権譲渡の債権とは、債権を持つ者(債権者)が、特定の相手(債務者)に対して金銭の支払いや労務など一定の行為をするように要求できる権利をいいます。たとえば売掛金や約束手形、小切手などは債務者にお金を要求できる債権です。
また子供が両親や祖父母に贈る肩たたき券も、法律的には肩たたき券の発行者に対して、肩たたきという一定の行為を要求できる債権となります。
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債権譲渡とは?
債権譲渡は、債権者が持つ金銭の支払いや特定の行為を求める権利などの債権を、内容を変更せずに他者へ移転する法的手続きです。債権譲渡は主に資金調達目的で行われ、企業が売掛金などの債権を支払期日前に第三者へ売却し、即時に現金を得ることが一般的な例です。この手法は、さらに、債権を担保として融資の返済や保証を受ける場合にも用いられ、借り手は追加融資の受け入れ能力を高め、貸し手は返済リスクを軽減できます。
債権譲渡のもう一つの主要な目的は、貸倒れや経営リスクの回避です。債務者の経営状況が悪化し、債権の回収が困難になる可能性に備えて、債権を専門のファクタリング会社へ譲渡することや、債権を担保とする契約を結ぶことで、リスクを低減できます。また、取引先の経営悪化により直接回収が難しくなった場合や、債権者自身が資金不足に陥った場合に、債権を第三者に売却し現金化することもあります。
債権譲渡は、譲渡された債権の管理と回収の責任が譲受人に移る点で、元の債権者にとってはリスク軽減や資金流動性の向上を、譲受人にとっては債権から生じる利益を得る機会をもたらします。
債権譲渡の対抗要件とは
債権譲渡の対抗要件とは、債権の譲受人が債務者に対して支払いの請求ができる権利を第三者や債務者に主張できる条件のことを指します。
民法第467条には、債権を譲受した者が債務者に対し、自分が真の債権者であることを主張するための要件として、元の債権者(譲渡人)が債権譲渡の事実を債務者に通知する、または債務者からの承諾を得ることが必要であると定められています。
「対抗」とは一般には互いに競り合うことを意味する言葉ですが、法律用語では法律の事実や効果について第三者に主張することを意味します。また、その主張((対抗)に必要な条件(要件)を対抗要件といい、要件を満たすことを「対抗力がある」といいます。
債権譲渡の対抗要件には、第三者対抗要件と債務者対抗要件が存在します。
第三者対抗要件について
第三者対抗要件の「第三者」とは、債務者以外の者を指し、二重譲受人や差押債権者、破産管財人などが含まれます。
二重譲受人はあまりなじみのない言葉ですが、譲渡人が同一の債権を2名に譲渡した場合、最初に譲り受けた者を第一譲受人、次に譲り受けた者を第二譲受人と呼び、それぞれの譲受人の関係性を二重譲受人といいます。
同一の債権において二重譲受人が存在する場合、どちらが第三者対抗要件を具備しているかで債権回収の優先権を判断します。
ちなみに具備とは必要なものを完全に備えること。第三者対抗要件を具備するとは、債務者以外の第三者に対して債権を主張できる条件を完全に備えるという意味です。
債務者対抗要件について
次に債務者対抗要件とは、債権の譲受人が債務者に対して自分が正当な債権者であることを対抗できる条件のこと。
具体的には譲渡人が債務者に対して譲渡の事実を通知するか、または債務者の承諾を得ることによって債務者対抗要件を具備することができます。
この要件が求められる背景には、譲受人が債務者からの支払いを請求する際、債務者が元の譲渡人と新しい譲受人に対して二重払いするリスクや、悪意を持った第三者が債権者を装う危険が存在するためです。そのため、債権の譲受人が債務者対抗要件を満たしていない場合、債務者はその請求を拒否することが認められています。
参考:
債権譲渡は何のために行われる?
債権譲渡の目的として最も多いのは貸倒れなどの経営リスクを回避することです。債務者の経営悪化などで債権回収が難しくなった場合に備えて債権を担保とする契約を締結したり、専門のファクタリング会社に債権を譲渡したりすることで貸倒れリスクを軽減できます。
また取引先の経営悪化で債権の直接回収が難しくなった場合に、回収の手立てを持つ第三者に債権を譲渡して債権回収行動を代行してもらうケースも。逆に債権者が資金不足になった場合に第三者に債権を売却して決済期日前に現金化することもよく行われます。
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債権譲渡を行うメリット
資金調達ができる
債権譲渡を活用することで、企業は売掛金などの未収入金を第三者に譲渡し、その代金を受け取ることが可能です。特にキャッシュフローが悪化している時期や、急速な成長に伴う運転資金の必要性が高い場合に効果的です。即時に資金を得ることで、企業は日々の運営資金を確保し、経営の健全性を維持することができます。さらに、債権譲渡の現金化では銀行ローンと異なり、新たな負債を生じさせずに資金を調達できるため、バランスシートの健全性を保つ意味もあります。
リスクの転嫁
債権譲渡により、企業は債務不履行や貸倒れのリスクを譲受人に移転することができます。特に経営状態が不安定な顧客や、回収が難しい債権を専門の回収会社に譲渡することでリスクを回避することができます。
債権譲渡を行う流れ
債権譲渡の実際の流れは、まず譲渡人と譲受人が債権譲渡について合意し、債権譲渡契約を締結して契約書を作成することから始まります。次に、譲受人は第三債務者および第三者への対抗要件を具備する必要があります。
債権譲渡契約は譲渡人と譲受人の間の合意にもとづく契約で、第三者はこの債権の移転を知ることはできません。このため、譲受人は債権譲渡契約の締結後、確定日付のある債権譲渡契約通知書を第三債務者および第三者に送付し、対抗要件を具備することが必要です。
ちなみに、「第三債務者」とは、債務者に対して債務を持つ者のことを指す法律用語です。例として、A社がB社に商品の材料を掛売りし、B社がその完成した商品をC社に掛売りしている場合、B社はA社に対して債務を、C社に対しては債権を持っています。
B社が経営難によりA社への支払いが困難となった場合、B社は自らが持つC社に対する債権をA社に譲渡することが考えられます。こうすると、A社は直接C社から支払いを受け取ることができるようになります。この際、A社にとってのC社は第三債務者となります。
もし債権譲渡が行われた場合、譲受人はその事実を第三債務者に通知するか、第三債務者の承諾を得ることで対抗要件を具備することができます。
また、第三債務者以外の第三者に対しては、確定日付のある債権譲渡契約通知書を送付することが必須です。これは、債権の二重譲渡を防止するための措置です。対抗者よりも確定日付が遅い場合、債権を主張することはできません。
このように、第三者に対しては対抗要件を明確にするための確定日付を有する公的な証書が必要となります。
債権譲渡の注意点
債権譲渡を行う際にチェックすべき注意点としては、債権が二重に譲渡されていないかどうかを確認することです。同じ債権が複数の者に譲渡されている場合は、前述した第三者対抗要件を先に具備した者が優先されます。
また、第三債務者が存在する場合は、債務者が第三債務者と債権譲渡禁止特約を交わしていないかどうかも確認しなければなりません。債務者と第三債務者との間で債権譲渡禁止特約が締結されていると、譲受人は第三債務者に対して債権の執行ができなくなります。
次に、当該債権がすでに弁済済みでないかどうかも確認しましょう。売掛債権は不動産のように目に見えるものではないため、債権の内容は証書での確認が必要です。売掛金がすでに弁済されている場合は債権が消滅していますので注意が必要です。
また、弁済が未了のまま時効が成立してしまっているケースも考えられます。時効によって債権が消滅している場合、売掛金は回収できません。債権譲渡契約を締結する前に債権の発生時期や支払期日、時効更新措置などをしっかり確認しましょう。
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まとめ
- 債権とは債権者が債務者に金銭の支払いや労務などを要求できる権利です。
- 債権譲渡とは、債権の内容を変更せずに他の者へ権利を移転することをいいます。
- 債権譲渡は貸倒れリスクの回避や債権回収行動の代行、事業資金を得るための現金化などを目的に行われます。
- 債権譲渡は譲渡人と譲受人が債権譲渡契約を締結し、次に第三債務者と第三者への対抗要件を具備するという流れで行われます。
- 債権譲渡を行う際の注意点としては、債権が二重譲渡されていないかどうか、債権がすでに弁済済みで消滅していないかどうか、債権が時効を迎えていないかどうかなどを確認しましょう。
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