法人の債務整理は、負債問題に直面する会社が借金の返済や経営再建を図るために行う手続きです。万が一、売掛金を持つ取引先が債務整理に進む場合に備えて、債務整理に関する知識を身につけることが重要です。
取引先の経営状況に不安を抱える会社経営者や経理担当者を対象に、法人の債務整理について解説します。
法人の債務整理とは
法人の債務整理は、債務超過となった会社が、債権者との交渉を通じて債務の一部を免除や、返済条件を再調整する手続き全般のことです。
債務整理の種類
法人を対象とした債務整理には複数ありますが、代表的なものは以下の4つです。
- 民事再生
- 会社更生
- 私的整理
- 破産手続き
上記4つの債務整理は、会社を消滅させる「清算型整理」と会社を存続させる「再生型整理」の2つに分類できます。
清算型整理 | 再生型整理 |
破産手続き | ・民事再生 ・会社更生 ・私的整理 |
民事再生とは?
民事再生は、会社を畳まず存続させる再生型の法的整理で、債務を一部免除してもらうことで会社の再建を図る整理手法です。
民事再生は、法人個人問わず広く適用を受けることができます。
民事再生の特徴は、債務者が経営権を維持したまま手続きを進められることです。経営者の退陣は求められず、既存の体制で経営が続きます。
民事再生の申立は、債務者の会社所在地を管轄する地方裁判所で行います。各裁判所が手続きの標準スケジュールを定めており、これに沿って進行します。例として、東京地方裁判所では申立から民事再生手続開始決定までが1週間、認可決定までが5ヵ月です。
民事再生開始決定手続がなされると、裁判所によって弁済禁止命令が出され、一部の債権者による取り立ては禁止されます。債務者は再生計画案を作成するために債権者に債権の届出を求めます。債権者は、裁判所が定めた債権届出期間内に届出を行う必要があります。届出を行わないと弁済を受けられなくなるため注意が必要です。
債務者の経営権を維持しながら事業再生を目指す民事再生手続は、債務者にとって大きなメリットがあります。債権者の同意を得られれば債務の大幅なカットが実現します。一般的には債務者が内密に手続きを進め、裁判所による手続開始の決定が発令されてから債権者が知るところとなります。
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会社更生とは?
会社更生も、民事再生と同じく会社を畳まず存続させる再生型の法的整理です。
会社更生の特徴は、再生型の債務整理の中で最も強力な制限を発揮することです。株主や担保権を持つ債権者の権利や、租税債権も制約を受けます。債権者は更生計画以外での弁済を受けることができず、担保権の行使は禁止され、実行中の担保手続きは中止されます。
会社更生は法的に強力なため、大規模な株式会社のみに適用される手続きです。
日本航空(JAL)やウィルコムなどが会社更生で復活しています。
経営陣の経営維持は認められず、全員が退陣を余儀なくされ、裁判所選任の管財人が会社の経営と財産の管理を行います。管財人主導の下、利害関係者の同意を得ながら更生計画が策定されます。会社更生は認可決定までの期間が長く、民事再生の5ヵ月に対し、1年~3年の期間を要します。
日本経済新聞 ウィルコム、会社更生法を申請 社長ら取締役全員辞表
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私的整理とは?
私的整理は、裁判所が主宰することなく、債務者自身、もしくは弁護士や公的機関が関与して進める債務整理です。
私的整理の特徴は、債権者に対して柔軟な対応ができることです。法的手続きでは、債権者は債権額に応じて平等に扱わなければいけない絶対的な原則があり、銀行からの借入債務と取引先からの仕入債務も同じように扱いますが、私的整理では厳密な意味での債権者平等はありません。しかし、現実的には銀行と取引先とでは返済の重みが異なります。取引先との取引が停止してしまえば、事業継続が立ち行かなくなるからです。
私的整理は、取引先とは通常業務を続けながら、銀行に対して支払の減免や猶予を相談し、銀行の債権のみを圧縮することで再建を目指します。
原則として対象とする銀行以外には外部への開示を行う必要がないため、風評被害等で会社の信用を落とすリスクを低減できます。通常業務を続けながら、会社の信用を落とさずに再建手続きを目指せるのが私的整理のメリットといえるでしょう。
ただし、私的整理は債権者に対する法的拘束力がないため、債権者全員の合意を得られなければ、再建計画は実行できません。債権者が再建計画を見て、透明性を確保できないと判断すれば、法的整理に移行することになります。私的整理はいかにして債権者の信用を得るかが成功の肝となります。債権者との円滑な交渉を図るための一助として、公的機関による支援団体や、経済界が賛同したガイドラインが整備されています。
参考
私的整理に関するガイドライン|一般社団法人 全国銀行協会 (zenginkyo.or.jp)
中小企業事業再生等ガイドライン | 中小企業向け融資に関する相談窓口 | 一般社団法人 全国銀行協会 (zenginkyo.or.jp)
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破産手続きとは?
破産手続きは、会社を消滅させる清算型の法的整理です。法人個人を問わず広く利用できることから最も申立数が多く、清算型債務整理の代表的な制度といえます。
破産手続きが開始されると、経営者の財産管理の処分権ははく奪され、裁判所の選任した破産管財人が財産管理を行うことになります。破産管財人によって、会社の土地や建物、機械や車などの設備といった債務者の全財産が換金され、債権者平等の原則のもと、債務者に公平公正な配当が行われます。
しかし破産手続きを行う債務者は、債務超過に陥り支払不能状態にあり、会社再建も見込めない状態です。公平公正な配当とはいえ、債権者に対する配当はほぼ見込めないでしょう。
債権者にとって取引先の破産手続きは最悪の事態です。売掛金のある取引先に経営状況悪化の兆候が見られる場合は、他社より少しでも早く回収手続きを進めることが重要です。
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取引先が債務整理を行う前に経営状況を知るには
取引先が債務整理を行う前には、必ず経営悪化の兆候があります。具体的には以下のようなものです。
- 取引先から支払条件の変更を求められる
- 担当者が短期間で何度も変わる
- 粉飾決算の疑いがある
- 取引先のメインの販売先が倒産
取引先から支払条件の変更を求められる
取引先から支払サイトや支払期日の延長の申し入れがあった場合、一時的な資金繰りの悪化なのか、財務状況が逼迫しているのか確認しましょう。
担当者が短期間に何度も変わる
役員や経理担当者が短期間に何度も変わった場合、何かしらの異変が社内で起きている可能性があります。
粉飾決算の疑いがある
決算書の売上高、売掛金、在庫などの数値をチェックし、売上を実際よりも大きく見せていないか確認しましょう。
取引先のメインの販売先が倒産
取引先の販売先が1社に集中している場合は、連鎖倒産のリスクが高まります。取引先の販売先の状況も確認しておきましょう。
取引先の動向を見極めるには常日頃からの情報収集が必要です。帝国データバンクなど第三者の調査機関を利用した情報収集や、同業他社との情報交換を積極的に行いましょう。
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まとめ
法人の債務整理にはいくつかの種類があり、大きく「再生型」と「清算型」に分けられます。再生型には「民事再生」「会社更生」「私的整理」があり、清算型には「破産手続き」があります。
民事再生は、債務者主導で進める法的な債務整理です。法人個人問わず広く適用されます。会社更生は法的に強力な制限を発揮するため債権額の大きな株式会社に限定され、経営者は退陣を余儀なくされます。
私的整理は、裁判所が主宰することなく、債務者自身、もしくは弁護士や公的機関が関与して進める会社整理の手続きで、近年、再生型の整理手法として主流となっています。
破産手続きは債務超過によって支払不能の状態にあり、会社再建も見込めない清算型の法的整理で、債権者にとって最も回収見込みの薄い債務整理です。
取引先の経営悪化には以下の兆候があります。
- 取引先から支払条件の変更を求められる
- 担当者が短期間に何度も変わる
- 粉飾決算の疑いがある
- 取引先のメインと販売先が倒産
平時からの備えとして最も重要なのは、的確な情報収集です。売掛債権のある取引先の経営状況には目を光らせ、経営悪化のシグナルをキャッチし、できるかぎり早期回収を実現していきましょう。
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